クリニックで苦情として多いのは「待ち時間が長い」ということです。
待ち時間を短くするために、クリニック側も様々な方法を考えて実践しています。しかし、実際のところはそんなに上手くはいきません。人相手のことですから、イレギュラーなことばかりです。
そこで、待ち時間を短くする方法として「予約制」とするクリニックが増えてきました。予約制にすることでメリットはありそうですが、導入することでの問題点は「クリニック経営は成り立つのか?」ではないでしょうか?
今回は、予約制を導入するメリットや、上手く利用する方法をご紹介します。
予約制にしたい理由
クリニック経営をしていると、様々な理由で予約制にしたいと思う場面に遭遇します。ここでは、そんな理由を考えてみます。
苦情が多い
冒頭でもお伝えしましたが、ダントツで予約制にしたい理由は「待ち時間が長い」という苦情が多いからです。
患者様によって症状が違うように、診察室に入ってからの話や対応も一人ずつ違います。
・とにかく先生と話したい
・まとめて話ができない
・治療など説明が理解できない
不安でクリニックに来院するのですから、こうした状況は誰しもあります。窓口で「まだですか?」と聞かれる程度ならスタッフも対応できますが、怒鳴られる患者様もまれにいらっしゃるので、対応困難で場合もあります。
繁忙期や混雑する日時に、こうした状況が続くと「予約制にしたい」と考えるようになります。
外来でできる検査と手術
可能な限り、診療時間は診察と簡単な処置に徹したいと考える医師がほとんどです。クリニックの経営を考えると、1日にどの程度の患者様を診察する必要があるのか、数字的に分かるようになります。決して患者様をカウントするわけではありませんが、経営を成り立たせるには必要なことです。
産科の分娩では、妊婦を待たせるわけにはいきませんので一時的に診察室を離れます。しかし、内科で実施する胃カメラ、大腸カメラ、眼科で実施する白内障の手術などは、診療時間に行なっていては多くの患者様を診察することができなくなります。
緊急性がなく、別の日程で行うことが可能である患者様については、予約を取りまとめて実施する方が効率よく行うことができます。
プライバシー重視の診療
診療科によっては、クリニックに来院すること自体を知られたくない、クリニック内であっても名前で呼ばれたくないというケースがあります。
例えば、美容外科・形成外科です。一昔前より診察や治療を希望される人が増えましたし、認知されるようになりましたが、まだまだ知られたくないという患者様がほとんどです。また、婦人科の不妊治療に対してもデリケートな問題ですから、知られたくないと考える患者様はいらっしゃいます。
例に挙げた診療科では、完全予約制に加えて、都心のビルなど診察だと悟られないような場所にあります。ご自身のクリニックでもこうした治療と同じぐらいプライバシーが重視される診察や治療があれば、一部のみでも予約制を考えた方が患者様も来院されやすいと考えられます。
予約制にする4つのメリット
実際に予約制を導入することでどんなメリットがあるのでしょうか?
4つのメリットが挙げられます。
待ち時間の短縮
残念ながら、予約制にしても「待ち時間をゼロ」にすることはできません。しかし、確実に待ち時間を短縮させることが可能となります。
予約を取る方法はいろいろありますが、設けられた時間の中で予約できる人数を設定します。処置やエコーなどの検査が有無によっても違いますが、患者様一人にかかる時間を算出することで、上限となる人数が決められます。
こうすることで、「何時に診察してもらえる」ということが明確となり、その時間に間に合うように来院もされるので、患者様を待たせるだけでなく「いつ来るか分からない患者様を待つ必要」がなくなります。
再診の患者様を増やせる
現在、新型コロナウイルスの感染予防として予約制を取り入れているクリニックは少なくありません。これによって来院する人数を制限することができます。あくまでも感染対策だとされるクリニックもありますが、これによって患者様の再診率を上げることができます。
これまで再診が確約されていたのは、定期的に薬を処方してもらう患者様のみです。一時的な症状や、処置をした患者様には経過観察として次回の診察を促しますが、経過が良好な場合は自己判断で来院されないケースもあります。
予約制にすることで「もう一度受信が必要なんだ」と患者様自身も意識されるようになります。また、薬の処方だけなら現在は電話での診察が可能ですから、空いた枠に多くの患者様の予約を取ることが可能になります。
クリニックにおいて、定期的な再診をされる患者様と、困った時に受信したいという受診歴のある患者様を確保しておくことは経営にも繋がるので、予約制を取ることはポイントが高いです。
患者様を均一に振り分けられる
患者様の再診率を上げることだけでなく、患者様の来院時間を振り分けることができます。患者様の来院時間を振り分けることで、こんなことが可能になります。
・待ち時間の短縮
・苦情が減る
・待合室の人数制限ができる
・ゆとりを持って診察ができる
・スタッフの残業時間を減らせる
誰しもそうですが、「診療時間に行けばいい」思いがちです。診療時間終了の五分前に駆け込んで来る患者様もいらっしゃいます。最近では受付最終時間を設けるところもありますが、苦しんでいる患者様を帰すこともできません。こうした患者様都合に合わせるだけでなく、予約という形で来院していただく時間を考えていただくことができます。
いつもと違う時間で、スムーズに診察することができたら患者様の方から来院する時間を考えてもらえるようになります。
スタッフの人件費削減
クリニックの仕事は、いつ終わるのか分かりません。就業時間を超える原因は、いつ来るか分からない患者様、終了5分前に来る患者様がいることです。当たり前のことではありますが、診療終了時間までは、クリニックは診察を続けなくてはいけません。診察や治療は診療時間を大幅にこえてしまします。
そうなればスタッフの残業時間が発生します。残業を減らすことは「働き方改革」でもうたわれていることなので、増やすわけにはいきません。
しかし、予約制にしてある程度の来院数が予測できれば、パートさんスタッフを早く帰らせるようなシフトを考えることも可能になり、働きやすい職場になります。人手不足の悩みからも解放されます。
予約制だけでは経営が成り立たない
ここまで、予約制の必要な理由やメリットをお伝えしましたが、実際のところ予約の患者様だけではクリニックの経営は成り立たないのが現状です。
先述したプライバシーを重視する診療科では、完全予約制で診察を行なっています。なぜ完全予約制で成り立つのか?矛盾していますよね。美容外科・形成外科・婦人科(不妊治療)は、診療報酬点数に該当しない検査・処置・手術を行なっているため保険対象外となります。そのため、患者様は10割を自己負担にて支払いをします。高額ですから保険診療で予約制のクリニックとは少し形態が違っているのです。
保険診療の枠でクリニックの経営を成り立たせるには、多くの患者様に来院していただくことが必須となります。経営を成り立たせる1日の来院数より、予約された患者様の人数が常に超えるようなら問題はありませんが、これをずっと続けられるのかといえば、不安が残ります。
非予約患者様の受け入れが経営維持になる
予約だけでは経営が成り立たないとなれば、やはり非予約患者様を受け入れられる状態を確保することも必要です。繁忙期や曜日、時間によって来院数に違いがありますから、受け入れられる人数も分析して、それぞれに合わせて決める必要があります。
内科であれば、冬の風邪やインフルエンザの時期には非予約患者様は予想できないところです。また、新型コロナウイルスが流行しているうちは、感染予防対策を取りながらになるので、症状によって予約も別枠で設けるなど、慎重な対応が必要です。
クリニックに合った予約制を導入する
今回は、予約制のメリット、経営への影響についてご紹介します。
予約制にするには、地域性や立地条件、診療内容にもよって異なること。また、新型コロナウイルス以降も続けるのか?まだまだ完全導入するには問題があることが分かりました。
これまでの来院数や患者様に受け入れてもらえるのかなど、ご自身のクリニックに合った方法を見つけてください。