私たちは、当たり前のように思っていますが、日本の医療は医師の知識と技術は、世界でもトップクラスです。病気にもよりますが、治療を受けて完治するケースがほとんどです。
こうした当たり前を支えているのは、医師をはじめとする医療スタッフのおかげでもありますが、国が医療保険制度で支えてくれていることがあります。
しかし、日本の医療保険制度はいずれ崩壊すると言われており、今後は患者様が当たり前に通院するような状況ではなくなることも考えられます。なにより医師の働き方、あり方も変わってくることが考えられます。
これまでのやり方が通用しなくなる前に、これからのクリニック経営のためにできることを考えて実践していくことが必要です。
そこで今回は、医療崩壊から考えられる、医師と患者様とのあり方を追求していきます。
今後のクリニック経営を考える
患者様は、医療保険制度があるため患者様は少ない負担で診察・治療を受けることができています。
また、クリニック側としては窓口で患者様が3割分の医療費を支払われ、残りの7割は国が支払ってくれることから、損失が発生することはほとんどありません。
開業時の初期投資についても安心して返済していくことができているはずです。
しかし、医療崩壊という形で、医療保険制度が無くなってしまった場合にはそうはいきません。仮に患者様の負担が10割となった場合、これまでのように診察・治療を受けにくる患者様は激減します。もしくは支払いが困難ということで滞納者を抱えることにもなります。
医師として何もできない、経営者としても上手くいかないとなってしまえば、自身の存在意義を考えてしまいます。
医療崩壊が考えられる
実際のところ、日本の医療制度は赤字が続いています。
2014年度の医療費は総額40兆円、2015年度は41.5兆円い言われ、増加していくことが分かります。
これには様々な理由が考えられます。
1つは、高齢化です。日本は長寿大国ですが、医療を必要とする高齢者が多くいらっしゃいます。近年では「健康寿命」が取り上げられるようになりましたが、生涯健康でいられる人の割合は非常に低いです。
2つ目は、医療費の無駄遣いです。冒頭でも伝えたように誰でも気軽に治療を受けることができますが、それが返って医療費を増やすことになっているのです。本当に治療を必要とする人が受けられないという状況でもあります。また、救急車をタクシー代わりに利用するというケースもあり常識では考えられないようなことが医療現場で起こっているのです。
こうしたことから、日本の医療保険制度は2025年には崩壊するといわれています。団塊世代がシニアになることが理由に挙げられますが、2020年の新型コロナウイルスの流行によって、崩壊は早まるという見解があります。
すでに医療崩壊している市町村はある
日本全体を見れば、医療崩壊までにはまだ時間があるようですが、地方や市町村単位で見ればすでに医療崩壊をしているところはあります。それが、北海道の夕張市です。
夕張市は2007年に財政破綻をしており、市民病院は閉院となりました。クリニックはありますが、緊急時には救急車が到着するまでに数時間かかり、それから中心部の病院まで搬送されるのです。
これは決して他人事ではありません。医療崩壊されたらどこの街で起きてもおかしくないのです。医療崩壊と言わなくても、離島や僻地と呼ばれる地域では病院やクリニックを維持していくこと、医師を確保することが困難です。
現状はクリニック経営が安定していても、いずれこういうことも考えられると危惧しなければいけません。
クリニックと患者様の関係性
医療制度に関する問題はありますが、やはり医師がいること、困った時に頼れるクリニックがあることは、患者様や地域の人たちには大きな安心になります。
都心や地方都市では、クリニックが飽和状態です。何をしたら患者様は来てくれるのか、お互いにどんなコミュニケーションがとれたら、信頼してもらうことができるのか、これは医師としてというよりは、経営者として関係性を考えていく必要があります。
ただ黙って待っていては、近隣のクリニックに患者様を取られて経営困難になります。
今後のクリニック経営に考えて欲しい3つのこと
いつくかの問題定義と、クリニック経営に必要なことを挙げてみました。
それでは、これからのクリニック経営において考えて欲しいことを3つご紹介します。
予防医療
日本の医療保険制度では、症状があり、治療が必要だと認められた疾患のみに適応しています。それ以外の疾患や治療については保険が認められませんから、全額自己負担になります。
医療崩壊によって保険が使えない、高額な自己負担が考えられるとなった時、人は何をするでしょうか?
きっとだれもが思うのは「病気をしない体になる」ということです。これまで以上に自分の体と向き合う人は増えていきます。
運動や食事制限など必要であった人、そうでない人も真剣に取り組むようになります。
こうした取り組みに対して、医師としてクリニックとしてできることは、予防医療として健康になれる方法を提案していくことです。医師としての知識はもちろん、管理栄養士による栄養相談や、理学療法士による運動療法などを伝えていくことができます。
終末期の迎え方
病気をしてもしなくても、いずれ死は訪れます。終活ともいわれますが、どのように終末期を過ごしたいのか、患者様と一緒に考えていくことです。
十分な医療は受けられなくても、最後まで自宅で過ごしたい人もいます。ガンなど痛みを伴う疾患の場合には、緩和医療としてサポートすることもできます。
プライベートに介入するようですが、クリニックに通院される患者様と「自分らしく生きること」について話して、クリニックのスタッフと一緒にサポートしていけるような関係性を築きたいですね。
地域社会とクリニック
いまクリニックがある地域社会との関係性も考えてみてください。
人口数・世代・今後どうなっていくのか、クリニック経営はどうあるべきか、できることを模索してください。
逆に、行政の力を借りて患者様や地域住民の方のためになることなら、率先して提案してみることです。
予防医療を進めていくのなら、学校や地域で講演会を開いてみる。健康体操などイベントを開催することもできます。
クリニックへは病気だから行くのではなく、健康でいたいから行くという意識を変えていくことも必要です。
共存していくという考え方
クリニック経営者として生き残っていくためには、治療するだけでなく予防医療や啓蒙活動に力を入れていくのも必要なことです。患者様のためにもなりますし、収入を確保することもできます。
「お医者様」と感謝されるだけの時代はやがて終わります。数年後に訪れる医療崩壊の時にどうなっていたいのか、先を見通してのクリニック経営をしていくことが重要です。
コンサルタントや他業種の人と交流してみることもオススメします。
医療をどこで何に活かせるかの可能性が広がっていきます。
まとめ
医療崩壊から考えるクリニック経営についてご紹介しました。
実際にはいつ訪れるかは分かりませんが、医療保険制度を見直す時期は必ずやってきます。
経営者として、政治の動きは注目しておきましょう。
また、患者様と地域との関係性は今後も良好であるように、できることをどんどん模索して実行していただきたいですね。