開業時の初期費用を抑えるために「居抜き物件」の選ぶ医師も少なくありません。
しかし、それなり建物が古かったり、設備投資にお金がかかるのでは?という不安もあります。
そこで今回は、居抜き物件を利用したクリニック開業についてのメリットとデメリット、成功させるポイントをご紹介します。
コスト面での優位性や開業までの時間短縮といった利点から、内装の制約や前身の評判継承といった課題まで、包括的に情報をお届けします。
居抜き物件とは?クリニック開業における革新的選択肢
まずは、「居抜き物件」についてご紹介します。
どんな建物を居抜き物件というのか、きちんと理解しておきましょう。
居抜き物件の定義と特徴
- 前テナントが使用していた内装や設備をそのまま引き継げる物件
- クリニックの場合、医療機器や什器も含めて引き継ぐことが可能
- 電子カルテシステムなどのソフトウェアが含まれるケースも
- ケースによっては、患者様のデータベースまで引き継げる可能性も(個人情報保護法に基づく適切な手続きが必要)
なぜ今、注目を集めているのか?
居抜き物件に注目が集まる理由としては、医療費抑制政策や人口減少など、医療を取り巻く環境が厳しさが増していることが大前提としてあります。
そんな状況の中で、初期投資を抑えつつ迅速に開業できる方法として、居抜き物件は注目を集めるようになりました。
世代としては、特に若手医師や診療科目の転換を考える医師が多いようです。
居抜き物件で開業するメリット:知って得する6つのポイント
居抜き物件を選ぶことで得られるメリットを、さらに詳しく6つのポイントでご紹介します。
1. 初期費用を大幅に抑えられる
- 新規で内装や設備を整える必要がないため、数千万円単位のコスト削減が可能
(例:100坪のクリニックの場合、内装工事だけで5,000万円以上が必要) - 医療機器も引き継げる可能性が高く、高額な機器投資を抑えられる
(例:MRI(1.5〜3億円)、CT(5,000万〜1億円)、レントゲン(500〜1,000万円)など) - 什器や備品も含めて引き継げるため、細かな出費も削減可能
(例:受付カウンター、待合室の椅子、診察室のベッドなど)
2. 開業までの準備期間が大幅に短縮できる
- 内装工事や設備導入の時間を省略できるため、通常3〜6ヶ月かかる準備期間を大幅に短縮
- 最短で1ヶ月程度での開業も可能なケースもある
- 迅速な開業により、早期の収益化が見込める
(例:3ヶ月早く開業できれば、その分の家賃や人件費などのランニングコストを節約可能)
3. 集患に有利な立地を引き継げる
- 以前のクリニックの認知度が活用でき、新規開業でありながら「既存患者様」を獲得できる可能性がある
(例:前身のクリニックが20年以上開院していた場合、地域に根付いた信頼を引き継げる) - 地域住民にとって馴染みのある場所であるため、新規患者様の獲得もスムーズ
- 口コミによる宣伝効果も期待できる
- SNSや口コミサイトでの評判も継承される可能性が高い
4. 保健所の許可が下りやすい
- 既に医療施設として使用されていた実績があるため、各種申請手続きがスムーズ
(例:診療所開設許可申請、医療法人設立認可申請など) - 建築基準法や消防法などの基準を満たしていることが前提となるケースも多い
- 許認可にかかる時間と労力を大幅に削減可能
- 通常2〜3カ月かかる手続きが、1カ月程度で完了することも
5. 即戦力のスタッフ採用の可能性
- 前クリニックのスタッフを引き継ぐことで、経験豊富な人材を確保できる可能性
- 地域事情や患者様の特性を熟知したスタッフの存在は大きな強み
- 新規採用と教育にかかる時間とコストを削減できる
6. 医療機器のメンテナンス履歴の引き継ぎ
- 既存の医療機器のメンテナンス履歴や使用状況を把握しやすい
- 適切なメンテナンス計画を立てやすく、突発的な故障リスクを軽減できる
- 機器の更新時期の予測が容易になり、計画的な設備投資が可能
居抜き物件のデメリット:事前に知っておくべき5つの注意点
もちろん、居抜き物件にもデメリットはあります。
以下の5点は特に注意が必要です。
1. 内装や設計の自由度が限られる
- 既存の間取りや設備に縛られるため、理想のクリニック空間を作り出すのが難しい場合も
(例:待合室と診察室の配置が理想と異なる場合、大規模な改装が必要になることもある) - 診療科目の変更や特殊な医療設備の導入には制限がかかる可能性
(例:内科から歯科への変更時、給排水設備の大幅な変更が必要になるケース) - ブランディングの観点から、内装の全面的な変更が必要になる場合もある
2. 医療機器や設備の老朽化リスク
- 使用年数の長い機器や設備がある可能性があり、予期せぬ故障や修理費用が発生することがある
(例:10年以上使用されているMRIやCTは、突然故障するリスクが高い) - 設備更新のタイミングが近い場合、想定外の更新費用が必要になる
(例:空調設備や電気設備の老朽化による突然の故障) - 医療技術の進歩に対応できない古い機器が残されている可能性がある
3. 前クリニックの評判も引き継ぐ
- 良い評判はメリットになるが、悪い評判は改善に時間と労力が必要
(例:主に治療方法やスタッフの印象は、払拭するのに数年かかることがある) - 診療方針や患者様対応に問題があった場合、その印象を払拭するのに苦労する可能性がある
(例:全く関係ないのに、前クリニックと関係があると思われるため) - SNSや口コミサイトでの評判も引き継がれることを考慮する必要がある
- 否定的な口コミの影響を受ける可能性がある
4. 建物自体の老朽化や耐震性の問題
- 築年数が古い建物の場合、耐震基準を満たしていない可能性がある
- 1981年以前の建物は旧耐震基準のため、耐震補強工事が必要になることも
- 外壁や屋根、給排水設備などの大規模修繕が近い将来必要になる可能性
- バリアフリー対応が不十分な場合、追加工事が必要になる
5. 立地条件の変化
- 開業から長期間経過している場合、周辺環境が大きく変化している可能性がある
(例:住宅地だった場所が商業地域に変わり、患者様層が変化しているケース) - 交通アクセスの変化(新駅の開業や道路の拡張など)により、立地の優位性が失われている可能性がある
- 競合クリニックの増加により、患者様の獲得が困難になっているケースもある
居抜き物件でクリニック開業を成功させるポイント
居抜き物件を選んでクリニック開業を成功させるには、以下のポイントに注目しましょう。
1. 立地条件と周辺環境を徹底調査
- 交通アクセス:公共交通機関の利便性、駐車場の有無、周辺の交通量
(例:最寄り駅からの距離、バス路線の有無、駐車場の収容台数など) - 競合クリニックの有無:同じ診療科目のクリニックの数と距離、特色
- 半径2km以内の同診療科クリニックの数と規模を調査
- 地域の人口動態:高齢化率、子育て世帯の割合、将来の人口予測
- 国勢調査データや自治体の統計情報を活用
- 将来の開発計画:新しい住宅地や商業施設の建設予定、道路拡張計画など
- 自治体の都市計画マスタープランを確認
2. 建物と設備の状態を細かくチェック
- 耐震性能:建築年数と耐震基準の確認、耐震診断報告書の有無
- 設備の使用年数:空調、電気、水道設備などの状態と更新時期
- 各設備の設置年や最終点検日を確認
- リフォームの必要性:内装の傷み具合、衛生面での問題点、バリアフリー対応状況
- 壁紙や床材の状態、水回りの衛生状態、段差の有無など
- 医療機器の状態:定期メンテナンス記録の確認、残存価値の評価
- メーカーによる点検記録や修理履歴を確認
3. 前クリニックの評判を徹底リサーチ
- 地域住民への聞き取り:近隣住民や地域の薬局などでの評判確認
- 可能であれば、アンケート調査やフォーカスグループインタビューを実施
- オンラインの口コミ確認:Google マイビジネスや医療口コミサイトでの評価チェック
- 口コミの内容や傾向を分析し、改善すべきポイントを洗い出す
- 近隣の医療機関からの情報収集:地域医療連携の状況や評判の確認
- 地域の医師会や病院との連携状況を確認
- 前オーナーへのヒアリング:可能であれば、運営上の課題や患者様の特徴などを聞く
- 経営状況や患者様の年齢層、よくある症状など、詳細な情報を収集
4. 法的リスクの確認
- 賃貸契約の内容:契約期間、更新条件、敷金・保証金の有無
- 建物の法的制限:用途地域、建ぺい率・容積率、高さ制限など
- 医療法や健康保険法に関する遵守状況:診療報酬の請求状況、医療広告の適法性など
5. 財務面での精査
- 前クリニックの経営状況:売上高、患者様数の推移、収益構造
- 引き継ぐ資産・負債の評価:医療機器の残存価値、未払金の有無など
- 開業後の収支シミュレーション:想定患者様数、診療報酬、運営コストなど
6. リニューアル計画の策定
- ブランディング戦略に基づいた内装デザインの検討
- 必要な改修工事の洗い出しとコスト試算
- 工事期間中の営業停止に伴う機会損失の試算
まとめ:居抜き物件で実現する、理想のクリニック開業
居抜き物件を活用したクリニック開業は、初期費用の大幅な削減や開業までの時間短縮など、多くのメリットがあります。
一方で、内装の自由度が限られることや、前クリニックの評判を引き継ぐリスク、建物や設備の老朽化など、考慮すべきデメリットもあることを忘れないでください。
慎重に物件を選び、十分な準備と調査を行えば、居抜き物件でも理想のクリニックを開業することは十分に可能です。
地域に根差し、患者様に寄り添う、素晴らしいクリニックづくりの第一歩として、居抜き物件の活用をご検討ください。