効率的な医療サービスの提供には、医師、看護師といった医療スタッフだけでなく、事務スタッフの存在も欠かせません。
特に、医療事務員は、患者様と医療従事者をつなぐ重要な役割を担っています。外から見ているよりもはるかに複雑で責任重大な仕事ですが、あまり知られていません。
今回は、患者様が診察券と保険証を提出してから会計を済ませるまでの間、医療事務員がどのような業務を行っているのか、ご紹介します。
開院する際に、どんな医療事務院が必要なのかポイントを押さえていきましょう。
医療事務員の主な業務内容
1. 受付業務:患者様との最初の接点
1.1 新規患者様の対応
医療事務員の仕事は、患者様との最初の接点である受付から始まります。新規の患者様に対しては、以下のような対応が必要です。
- カルテの作成:患者様の基本情報を正確に記録します。
- 問診票の配布と回収:患者様の健康状態や既往歴などを把握するために重要です。
- 診察券の発行:次回以降の受診をスムーズにするためのものです。
これらの作業を丁寧かつ迅速に行うことで、患者様に良い第一印象を与えることができます。
1.2 再診患者様の対応
再診の患者様に対しても、以下のような対応が必要です。
- 診察券の確認:スムーズな受付のために欠かせません。
- 定期的な保険証の確認(月1回):保険情報の変更がないかチェックします。
再診の患者様に対しても、細心の注意を払う必要があります。特に保険情報の変更は見逃さないようにしましょう。
2. 保険証の確認と情報入力:正確さが命
保険証の情報入力は、医療事務の要となる業務です。以下の作業が含まれます。
- 保険証の内容をレセプトコンピュータ(レセコン)に入力
- 保険証のコピーまたはスキャン
- 問診票の内容をレセコンに入力(診療所によって異なる)
ここでのミスは、後々大きな問題につながる可能性があるため、細心の注意を払って作業を行います。特に、難読な漢字の氏名や、最近増えている「キラキラネーム」には要注意です。
例えば、「神野」さんという名前一つとっても、「こうの」「じんの」「かみや」「かみの」「しんや」など、さまざまな読み方があります。必ず患者様本人に確認するようにしましょう。
3. 診療補助:円滑な診療をサポート
医療事務員は、診療がスムーズに進むようサポートします。主な業務は以下の通りです。
- カルテを診察室へ送る
- 検査や処置の予約管理
- 診療補助(体温測定、血圧測定など)
これらの業務を通じて、医師や看護師が診療に集中できる環境を整えます。
4. 会計業務:正確な計算と丁寧な説明
会計業務では、複雑な保険制度を理解し、正確な計算を行う能力が求められます。主な業務は以下の通りです。
- 診療内容の確認と保険点数の計算
- 会計書類の準備(診療情報明細書、領収書など)
- 患者様への会計説明
- お薬の説明(院内処方の場合)
- 次回予約の案内
特に保険点数の計算は複雑で、常に最新の情報を把握しておく必要があります。
例えば、初診料は2年ごとに改定されます。2018年4月から2020年3月までは282点(2,820円)でしたが、その後の改定で変更される可能性があります。
また、患者様にわかりやすく説明する能力も必要です。医療費の内訳や、次回の予約について丁寧に説明することで、患者様の不安や疑問を解消することができます。
5. 日次業務:1日の締めくくり
1日の診療が終わったら、その日の売上を確認します。主な業務は以下の通りです。
- 日計表の発行
- 売上と窓口徴収金額の照合
これは経営管理の基本となる重要な業務です。日々の売上を正確に把握することで、クリニックの経営状況を常に把握することができます。
6. レセプト業務:月に一度の大仕事
レセプト業務は、医療事務員の仕事の中でも特に重要で複雑な業務です。
主な作業は以下の通りです。
- 患者様ごとの診療内容の確認
- 保険者ごとの集計
- レセプトの作成と送付
毎月8日または10日までに前月分のレセプトを提出する必要があり、短期間で大量の作業をこなさなければなりません。この業務をミスなく行うことで、クリニックの安定した収入につながります。
医療事務員の仕事の特徴と重要性
正確性と迅速性の両立
医療事務の仕事は、正確さと迅速さの両立が求められます。保険証の情報入力や会計計算など、ちょっとしたミスが大きな問題につながる可能性があります。同時に、患者様をお待たせしないよう、素早い対応も必要です。
継続的な学習の必要性
医療保険制度は2年ごとに改定があり、診療報酬や薬価も変更されます。
例えば、ある抗生物質の価格が40年間で10分の1以下になったケースもあります。医療事務員は常に最新の情報を学び、アップデートしていく必要があります。
コミュニケーション能力の重要性
医療事務員は、患者様、医師、看護師など、様々な立場の人とコミュニケーションを取る必要があります。
特に、患者様に対しては、丁寧でわかりやすい説明が求められます。医療専門用語を噛み砕いて説明する能力も必要です。
ITスキルの必要性
最近の医療事務はコンピュータ化が進んでおり、レセコンの操作スキルは必須です。
また、電子カルテシステムの導入も増えているため、ITリテラシーの高さも求められます。
常に新しい技術に適応していく柔軟性が必要です。
クリニック開業時の医療事務体制構築のポイント
医療事務員の仕事内容と業務フローについて、詳しくご紹介しました。クリニックを開業する際には、以下の点に注意して医療事務体制を構築することをおすすめします。
- 適切な人員配置:診療規模に応じた適切な人数の医療事務員を配置しましょう。小規模なクリニックでも最低2名は必要です。
- 業務マニュアルの整備:統一された対応ができるよう、詳細な業務マニュアルを作成しましょう。特に、受付から会計までの流れ、保険証の確認方法、レセプト作成の手順などを明確にしておくことが重要です。
- 継続的な研修:医療保険制度の改定や新しいシステムの導入に対応できるよう、定期的な研修を行いましょう。外部の研修に参加させるだけでなく、院内でも勉強会を開催するとよいでしょう。
- 効率的なシステムの導入:レセコンや電子カルテなど、効率的な業務が行えるシステムを導入しましょう。ただし、システムの選定には慎重を期し、スタッフの使いやすさも考慮に入れてください。
- 患者様中心の姿勢:常に患者様の立場に立った対応ができるよう、スタッフ全員で意識を共有しましょう。患者様の声に耳を傾け、サービス改善に活かす姿勢が重要です。
まとめ
医療事務員は、クリニックの運営において非常に重要な役割を果たします。適切な体制を整えることで、患者様により良い医療サービスを提供できるだけでなく、経営面でも大きなメリットが得られるでしょう。
例えば、正確なレセプト業務により請求漏れを防ぐことができます。また、丁寧な患者様対応により、クリニックの評判が向上し、新規患者様の増加につながる可能性もあります。
クリニック開業の際には、ぜひ医療事務体制の構築にも十分な注意を払ってください。適切な医療事務体制は、クリニックの成功に不可欠な要素の一つです。患者様に寄り添い、医療従事者をサポートし、そしてクリニックの経営を支える。そんな重要な役割を担う医療事務員の存在を、ぜひ大切にしてください。
そして、医療事務員の採用と育成には時間がかかります。開業準備の早い段階から、医療事務体制の構築を始めることをおすすめします。最初から優秀であれば何ら問題はありませんが、そういった人はなかなかいません。時間をかけて育てるということをはじめから理解しておくほうが、後々、自分へのストレスが減らせます。
優秀な医療事務員の存在が、きっと先生方のクリニック運営の大きな力となるはずです。