使いやすい業務マニュアルは、スタッフ全体の行動基準を統一することが出来、業務品質の向上やスピードアップといったメリットを生み出します。
ここでは、活用できるマニュアル作成の方法とポイントを説明していきます。
マニュアルを用いるメリット
クリニックの規模にかかわらず、マニュアル運用は大きく3つのメリットをもたらします。
(1)業務を行う際の手順、結果に対する基準を明確にすることで、複数のスタッフが一定の結果を出しやすい。
(2)新人スタッフに仕事を教えたり、業務を引き継ぐ際に教育のための資料として用いることができる。
(3)院長または、先輩スタッフが他のスタッフを評価する時に客観的な基準と照らし合わせて判断できる。
「わかりやすい」とは
マニュアルを作成する際、“わかりやすい”マニュアルを作りたいと考えると思います。
わかりやすさとは、「マニュアルを読んだ誰もが、同じように作業を実行できるように=再現性があるように書かれたもの」です。
以下の項目を読み進めて、ポイントを理解していきましょう。
作業の区切りを意識する
一挙手一投足を細々と指示する必要はありません。例えば、先輩から後輩に教えるようなイメージで「まずあれを」「次にこれを」の単位で区切ると、読みやすいマニュアルになります。
読み手のレベルを想定する
マニュアルは使う人のものです。使う人の知識レベルを想定して、必要以上に丁寧に書き過ぎないことが重要です。例えば、社内の専門用語の解説は、あった方が親切なように感じますが、書きすぎるとかえって逆効果となることもあります。冗長になり過ぎないようにしましょう。
個人による曖昧さを排除する
ディスニーランドの例を出すと、驚くほど作業を細かく分割したマニュアルがあるそうです。「テーブルを掃除する」というマニュアルには、以下の4つのステップが書かれています。
(1)テーブルを端から端まで拭くときには、ダスターを使い、左から右へ拭く
(2)右端へいったら直前に拭いた部分と30%重複するように右から左へ拭く
(3)天板を拭き終えたら、次にテーブルの縁の部分を右回りに1周拭く
(4)最後に床のチェックをし、雑巾とホウキを使い、ゴミや汚れを取り除く
これは、誰がやっても一定の水準を満たす仕事ができるようにするためだそうです。
「テーブルを綺麗にしておいて」という指示では、作業者によって結果に差が出ます。
まさに、個人の価値観ではなく、設定した基準を共通の優先事項にする仕組みです。
ここまで詳細でなくとも、「状態」と「数量」を具体的に書くだけで、わかりやすさが格段に増します。
・入れる→パチンと音がするまで入れる(状態の具体化)
・分ける→4つに分ける(数量の具体化)
このように、マニュアルによって業務の標準化を図ることが大切です。
仕事の全体像が俯瞰できる内容にする
作業を効率的に進めるためには、仕事の全体像を把握している必要があります。
仕事の全体像とは、以下の項目等です。
(1)仕事の意味(仕事の位置付け)
(2)仕事全体の流れ
(3)作業工程
(4)求められる水準(作成時間、達成度、品質)
ベテランの方だけでなく、新人や若手の方でもわかるマニュアルにするために、全体像の記載が必要です。新人や若手の方は、仕事の意味を理解することにより、不安なく前向きに行動することが出来ます。
考え方の軸=仕事の判断基準を示す
考え方の軸とは“判断のモノサシ”のことです。これを業務マニュアルに示しておくと、新人や若手の方でも判断に迷うことがありません。
例えば、「整理整頓が重要な仕事」についていえば、単にこの仕事には「整理整頓が重要」と記述するだけでは不十分です。形式的になり過ぎて、言葉の持つ重みが行動に転化しない可能性が大きくあります。このような場合の考え方の軸は、例えば「整理整頓ー仕事を早く終わらせ、書類紛失によるトラブルを防止する」というレベルで示すことが必要です。これにより、毎日帰る際は、机上だけでなく机の中まで整理整頓するといった具体的な行動に繋がります。
実務の確認点をチェックリストで示す
ミス・トラブル削減を目的として、チェックリストを作成します。チェックリストにより仕事の手順を標準化すれば、業務品質を安定させることが可能です。ミス防止のため、チェック項目をうんざりするくらい記載してしまうことがありますが、逆にミスは減らず、さらなるミスを生む悪循環に巻き込まれることが往々にしてあります。チェック項目は、担当者の責任項目として、確実にチェックできることとすべきです。
クレーム・トラブルを見える化する
例外処理や職務遂行のためのノウハウ・コツなどもマニュアルには欠かせません。文字化しにくい暗黙知を極力文字化しておきます。クレーム・トラブル事例などは、事例を記載し、印象強く見える化することで組織として共有します。
使えるマニュアルとは
「マニュアルは一応あるけど、あまり使っていない」という先生は、使えないマニュアルを作成している可能性が高いです。その代表的なものは、他院で使用していたものをそのまま使用するというパターンです。自院の状況や必要性に応じて、具体的な内容を検討したもの出なければ、実際の現場で有効なものにはなりません。
同じように、院長先生が作ったものをスタッフに渡しただけというものも現場のスタッフたちにとって使い勝手がいいかどうかわかりません。
もっとも良いのは、「どの点を重視したマニュアルにするのか」「基準をどこに置くのか」といった先生の意向を含めながら、実際の流れはスタッフに案を出してもらい、話し合いながら作っていくというものです。
また、マニュアルの効果的な運用方法としては、
(1)教育スケジュールの中にマニュアルが組み込まれているか?
(2)教育する側が実際にマニュアルを使用して教育出来ているか?
最低限、この2つの条件を満たしている必要があります。
マニュアルをスタッフ教育に生かす
複数のスタッフを雇用すれば、さまざまなタイプの人がいます。
几帳面で細かい人もいれば、ズボラで大雑把な人もいます。もともと器用な人もいれば、不器用な人もいます。
これらの特徴が業務の結果に影響のない範囲であれば、その人の個性としてそれほど気にする必要はありません。しかし実際は、仕事において到達するレベルやそれまでに要する時間には、このような個人の資質が大きく関与しています。また、このような個人差には、それぞれのスタッフがもつ価値観が大きな影響を与えています。
たとえ能力が同じであっても、何に優先順位を置くか、またはどの程度で良しとするかなど、個人の感覚が違えば当然取り組み方や結果も変わってきます。
マニュアルを活用し実務に必要な基準を提示することで、個々の“自分なりの努力”を、“クリニックの方針に沿った”努力に変えることが出来ます。
まとめ
ポイントを抑えて作成したマニュアルは、クリニック運営において大きな意義をもたらします。ぜひ、簡単なマニュアルを作成するところから始めてみましょう。