勤務医時代には、病院の経営に関わることがないので診療報酬改訂について考える機会は、ほとんどありません。
しかし、クリニックの開業となれば診療報酬は、クリニック経営の成功を左右するものだと理解して、しっかり考えていく必要があります。
2022年3月には診療報酬改定が予定されています。
開業後、初めてという医師の方もいらっしゃるはずです。
今回は、診療報酬とは何か、改定とは何があるのか、この二つについてご紹介していきます。
診療報酬とは
クリニックでの医療行為は、保険診療の範囲内のものは二つの方法で報酬となります。
一つは、窓口で患者様本人から支払われるものです。
もう一つは、国に請求して受け取るものです。
診察、処置、処方といった全てが診療報酬の対象となり、医療費として受け取ることができます。
診療報酬点数は一点=10円として算定されます。保険診療報酬は、患者様に10割請求することはなく、窓口にて患者様から2、3割(年齢などによって異なる)分負担分を徴収します。そして残りの割合分を社会保険、国民保険に分けて請求をします。
請求の誤りや内容の確認を求めたりと、スムーズにいかない場合もあります。そうした間違いが極力減らせるように、医療事務を専門とするスタッフが必要となります。
クリニックの報酬は診療報酬点数で決まる
ここで生まれる素朴な疑問は「診療報酬は、どのように決められるのか?」です。
商品を購入するときのように、医療費は誰が決めているのか?
医療行為の全てには「診療報酬点数」が決められています。診療報酬点数は国によって決められます。
医療行為には診療報酬点数がある
全ての医療行為に診療報酬点数があります。
例えば、「注射する・レントゲンを撮影する・検査をする」という医療行為は分かりやすいのです。しかし、目に見えて分かる医療行為だけでなく、患者様への指導や相談にも診療報酬点数があるので、これも含めて報酬が得られるように細かくチェックしましょう。
診療報酬点数の算定次第では、クリニックの売上が伸びる可能性があるのできちんと理解しておくことも必要です。
診療報酬点数を算定する条件
医療行為を診療報酬として受け取るためには、診療報酬点数を理解して算定することが大事ですが、算定できる条件があります。
例えば、施設基準です。クリニックの規模、医療機器などの適切な医療行為ができるのか条件をクリアする必要があります。どの診療報酬点数を算定するのかによって条件は異なるので、新しい治療を始める時や算定したい診療報酬点数がある時には、その都度確認してください。
診療報酬改定とは
決められた診療報酬点数によって、医療費が決まります。
この診療報酬点数は、ずっと同じものではなく定期的に改定が行われます。
2年に一度の改定
診療報酬は2年に一度、大きく改定されます。
なぜ改定が必要なのかといえば、やはり医学の進歩、そして世の中の変化が大きく関わっています。
例えば、内科で行われる内視鏡検査。胃カメラの場合、口から咽頭、食道を通じて胃の検査をするのが主流ですが、数年前より鼻からカメラを入れる検査が増えています。
他にも、クリニックでも手術をしたり、CT・ MRIを設置するところが増えています。
少し昔のクリニックでは無理だった医療行為が、医療機器の最新技術や環境を整えることで可能となることが増えてきました。
さらに、不妊治療に関しては自由診療のため、患者様の金銭的な負担が大きく治療を諦める方もいらっしゃいましたが、いよいよ保険診療対象の治療となります(条件あり)。
医師も日々学び、知識と技術を磨いています。様々な観点から、診療報酬点数は見直す必要があり改定されていきます。
経過措置と特別措置
診療報酬点数の改定は、2年に一度だけではありません。
必要な医療行為に関しては、見直しがされ点数または加算の内容が変わっていきます。
また、改定により診療報酬点数を算定するために、施設に手を加えたり、人員の確保等が必要な場合は、経過措置がとられるので遅れてスタートする場合もあります。
ここ数年では、新型コロナウイルスの影響により特別措置として診療報酬点数の点数が見直されました。
診療報酬改定に向けて注意すること
診療報酬の改定に伴い注意する点があります。
初めての改定で心配な医師の方には、特に注意してほしいところです。
正式な改定は3月末まで分からない
2年に一度の診療報酬点数は、新年度となる4月から施行されます。
改定をされる時期が分かっていれば、システム、書類に関する変更もスムーズに準備ができます。
他の法令もみれば、事前に分かっており対応までに猶予もあります。
しかし、診療報酬点数の改定では、ギリギリの3月末ぐらいまで決定しないことが多くあります。
ある程度の指針、減増収について、見直されるポイントは、中間報告として挙げられます。それに伴い、日本医師会が会員を対象とする「白本」と呼ばれる、改正後に予想される内容をまとめ本を刊行します。
少しでも正しい情報を集めたいので、白本を元に情報が飛び交いますが決定事項ではありませんので、注意が必要です。
ギリギリまで決まらないものだと認識しておきましょう。
準備期間が短い
改正内容の発表から準備期間までは、非常に短いものです。
最も大変なのが、クリニックで使う医事システムが導入されたパソコンです。
改正された点数の変更、領収書など発行様式の変更、点数の算定に必要な特記事項の追加など、4月から稼働できるように準備をしなくてはいけません。
実際に、システムの変更をするのは担当するシステム会社ですが、操作手順をスタッフに説明したり、覚えるまでの時間はさらに短くなります。
スタッフを交えて説明会に参加する
医師一人が情報を把握していても、改定後の4月からクリニックが対応できるわけではありません。
まずは、スタッフが情報を知る機会を作りましょう。改正内容が決まれば医師会をはじめとする各種団体が説明会、勉強会を開催します。こうした場にスタッフを参加させて改正後の変更点を理解してもらいましょう。
ここでのポイントは、全員に聞いてもらうことです。医療事務のスタッフだけでなく、看護師にも聞いてもらいましょう。「私には関係ない」と拒否する看護師もいますが、医療行為に関する点数であること、算定するために処置の方法が変わることがあります。
間違った手順、変更前の手順のまま、新しい点数で算定を続けていると監査の時に返納することになります。この場合は、数ヶ月、数年単位で返納となるので、クリニックとしては大きな損失になります。
この責任は、スタッフの管理不足とされ、クリニック経営者としても傷になります。
一人のスタッフがここまで考えてくれることはありません。ご自分のクリニックを守るためにも、スタッフが参加するように努めましょう。
まとめ
診療報酬点数の改定についてまとめてみました。
開業初めての時には、いろいろ勝手がわからないことが多いので、手こずることがあります。そんな時には慌てず、医薬品メーカー、卸業者、システム会社に協力をお願いしてください。一人では分からないことが多いです。何より4月に間に合わないとクリニックの収入が減ってしまうこともあります。
また、スタッフと情報を共有することで、新しく算定できる点数が見つかったり、収入増加となる発見があります。
クリニック経営を考えてくれるスタッフは、ほとんどいません。しかし、スタッフでの働きやすさ、考え方などは、こうしたところで知ることができます。
スタッフと一丸になって取り組んでください。