開業を決意したものの、一体何から手をつけたらいいのだろうか、というのは開業を決めた多くの医師が最初に直面する悩みです。
また、開業準備に関する書籍などを通してやるべきことが色々とあるのは理解出来たけど、どう進めていいのかわからないという方も多くいらっしゃいます。
しかし、開業までの工程はある程度決まっており、きちんと把握しておけば確実に目的地へたどり着くことが出来ます。ここでは具体的な手順について説明していきます。
診療方針などのコンセプトを固める
クリニックのコンセプトとは、わかりやすく言えば「どのような患者さんに、何を、どのように提供するのか」を決める作業です。
コンセプトの策定が重要なのは、それが開業に向けてさまざまな選択をしていく中で指針となる存在だからです。例えば開業場所選びにしても、一般内科として生活習慣病の患者さんを診ていきたいのか、豊富な内視鏡検査の経験を活かして検査メインでやっていきたいのかでは、対象となる患者層が異なるため、物件選びの基準も変わります。
このように、コンセプトとはクリニックの開業・経営の土台となる部分なので、最初に時間をかけて慎重に考える必要があるわけです。
基本的には「なぜ開業したいのか」「どういう診療をしたいのか」といった開業の動機を掘り下げていくことで、自然と固まるものです。
ただ開業の動機には、「身につけた技術を活かしたい」「地域医療に貢献したい」というポジティブなものもあれば、「大病院の人間関係やしがらみに疲れた」というネガティブなものまで複数組み合わされているのが一般的です。それらを掘り下げていくためには、「開業して何がしたいのか?」「どうなりたいのか?」の2つをキーワードに、一度紙に書き出してみると良いでしょう。
書き出し方は自由で良いですが、ポイントは出来るだけ具体的に書くこと。例えば消化器内科のドクターで、開業してやりたいことが「内視鏡検査をクリニックの中で体系立てて行っていきたい」だとしたら、できればもう一歩踏み込んで、「一日に◯人、または週に◯人くらいの患者さんを受け入れたい」と、具体的な数字まで考えます。
「どうなりたいか?」の方は、将来的な見通しではなく。収入はどの程度必要か、どんな風に生活したいかなど、診療内容以外の要素について書いていきます。
そうすることで、「どんなコンセプトで、どのような患者さんに、何を、どのように提供するクリニックを作りたいのか」が見えてきます。
開業場所を決定する
コンセプトの策定を通して、「どのような患者さんに、何を、どのように」提供するかがある程度固まってきたら、次に手をつけるべきは「開業場所の選定」です。
開業場所の選定は集客にも直結し、もし後から変更しようとすると、これまでの工程が全てやり直しになり兼ねない非常に重要な段階です。決定までのおおよその段取りは以下の流れになります。
(1)開業場所の形態を決める
一戸建てにするのか、ビルのテナントに入るのか、医療モールに入居するのかといったクリニックの入居先を決める。
(2)エリアの希望を考える
コンセプトの「どのような患者さんに、何を、どのように提供するか」という軸に沿ってエリアを考える。
(3)実際に物件探しを依頼する
地域の不動産会社や開業コンサルタントなどに依頼して、条件に合った物件を紹介してもらう。
(4)紹介してもらった物件が妥当かどうか検討する
いくつかの物件を紹介してもらったら、現地調査や物件データの確認などを通して開業地として妥当かどうか検討する。確認する項目としては、「エリアの人口・年齢構成」「エリアの人の動き」「交通機関の状況」「エリア内の競合となるクリニックの数と実態」など。
開業資金の調達をどうするのか
自己資金は当然、多ければ多いほど良いですが、手持ち資金ゼロでもクリニック開業は出来ます。診療科目にもよりますが、自己資金2,000万円程度用意できれば、かなりゆとりがあるでしょう。
運転資金は、事業経費に加えて先生自身の生活費も見積もる必要があります。これらの支出を含めた収支が黒字になるまでの間の必要資金となります。
不測の事態による開業後の運転資金追加申し込みは、金融機関に対して非常に悪い印象を与え、融資許可が下りない可能性の高いため、当初から極力多めに手当てし、余剰が発生する都度一部繰り上げ償還を行う選択をとると良いでしょう。
クリニックの設計・内装
まず設計事務所を選ぶ際、複数の設計事務所と会うと良いでしょう。設計会社をどこにするかで、開業コストが100万〜1,000万円程高くなってしまうということも多くあります。信頼できる会社に依頼しましょう。
そして設計事務所が決定したら、内装のコンセプトを考えます。基本となるデザインや色調は基本的に院長の診療方針・好みで決まりますが、診療方針に沿って、ターゲットとなる患者さん層を考慮した上で決めることが大切です。
医療機器の選定
診療科によって必要な医療機器は異なりますが、どの科にも共通するのは「電子カルテ」の重要性です。病診連携を図る上でも、電子カルテを導入するクリニックは増えており、新規開業ではほぼ必須のアイテムとなりつつあります。電子カルテには様々な企業の製品が出ており、基本的には使い勝手で、迷った時は「操作性」「アフターフォロー」「金額」の3点を比べてみると良いでしょう。
その他の医療機器については、X線やエコー、内視鏡などの中から自分の診療に必要なものを選ぶのが基本です。気をつけるべきことは、大病院とクリニックとでは患者数やどのような患者さんが来るのかが違うので、同じ検査機器でもグレードの違いが存在するということです。経営計画と照らし合わせて問題のない範囲で導入しましょう。
スタッフを採用する
どんな人を採用するかは、クリニックの雰囲気を決定付ける要素となるため、非常に重要なポイントです。開業前の人材募集にはハローワークは使えないので、基本的にはウェブの人材募集サイトや新聞の折り込み広告、求人誌ガイドなどに募集広告を打って、必要な人材を募集する事になります。
現在の動向としては、看護師はどの医療機関でも慢性的な不足状態が続いています。一方で、医療事務は好景気になると他職種に流れるため希望者が減り、不景気になると希望者が増えるという傾向があります。開業時、経験豊富な看護師が一人は欲しいところです。
広告戦略を決める
いかに患者さんを集めるかというのは、一般店舗の集客と同じで非常に重要な問題です。ここでは、最も集客に影響のある「ホームページ」と「口コミ」について取り上げます。
まずホームページは、自分で作る場合と業者に委託する場合が考えられますが、重要なのは患者目線を大切にして、「どんな強みがあるクリニックなのか」を専門的な内容に偏らずに、わかりやすく伝えることです。業者に委託する場合は、内容を更新したいときはいつでもスムーズに更新できるかどうかも重要な要素になります。
一方、口コミについては、以前の勤務先から付いてきてくれた患者さんや、最初に来てくれた地域の人などを中心として、徐々に広がっていくのが基本です。時間がかかるのが難点ですが、いい評判が広がれば自然と患者さんが集まるので、何よりも頼れる集客ツールとなります。本格的なオープンの前に地域の方や関係者を招待する「プレオープン」でクリニックを知ってもらう機会を作ると良いでしょう。
まとめ
開業までにやるべき事、気をつけるべき事の多さに大変そうと思われた方も多いと思います。全てを自分でやるのは難しい際は、工程の一部、または大部分を代行してくれる開業サポート会社に依頼してみても良いでしょう。しっかりと準備を重ねて、自分ならではのクリニック開業を成功させましょう。