診療報酬点数の改正が2022年4月より実用化されています。
これは二年に一度必ず行われる点数改正ですので、どの医療機関でも改正内容に合わせて整備されているのではないでしょうか?
診療報酬点数は、診療や治療など絶対的に守らなくてはいけないルールもあれば、該当する施設、診療内容によって算定される点数とそれぞれあります。
そんな中で、注目したいのは「リフィル処方箋」です。一定期間内に複数回同じ処方内容の薬が診察なしで手にすることができるという処方箋です。
リフィル処方箋については、それぞれの立場から減収、増益と賛否両論の意見が聞かれます。クリニック経営の立場から見た場合は、どう判断するべきでしょうか?
今回は、リフィル処方箋の仕組みとクリニック経営的に導入するか否かについて考えていきます。
リフィル処方箋とは
リフィル処方箋とは、一定期間内に複数回、医師の診断なく薬を処方することができる処方箋のことをいいます。
これまでは、医師の診断なしには処方をされることは禁じられてきましたが、2022年4月よりリフィル処方箋の発行ができるようになりました。
日本においては、リフィル処方箋は初めての試みとなりますが、海外ではすでに導入している国も多く、最も古いアメリカでは慢性疾患を対象に、フランスでは経口の避妊薬を扱うなど、国によっての違いがあります。
通常の処方箋との違い
普段、クリニックで渡す処方箋と、リフィル処方箋の違いですが、見た目的には違いがありません。これまでの様式にリフィル処方箋とする「レ点」にチェックが入ることで、リフィル処方箋となります。
実施を考えているクリニックでは、医事コンピュータの設定が必要となるので、システム会社に確認をしてください。
分割調剤との違い
継続的に薬がもらえることから間違えやすいのは「分割調剤」です。
分割調剤は、長期的な保存が難しい薬を医師の指示に基づいて分割して処方を行います。
医師や薬剤師から見れば、分割する理由は明確ですし、リフィル処方箋との違いも分かりますが、患者様からすると違いが分かりにくく感じられます。
誤解を招かないように、説明を求められた時にはきちんとお伝えください。
リフィル処方箋導入のメリット
リフィル処方箋を導入することで、クリニックにとって考えられるメリットを確認しましょう。
医師の業務負担が減る
どんな患者様にも診察は必要ですが、症状によって診察時間には変動があります。薬をもらうだけの患者様にも、診察をしたという実績をカルテに残す必要があります。もちろん聴診器による触診等も必要です。
こうした一連の流れとも言われ、非難される診察時間を短縮できます。
待ち時間が減る
診察なしで薬がもらえるわけですから、患者様の待ち時間も減ります。
大きく減少するかは取り組み次第ですが、繁忙期には体感として減ることが考えられるので、苦情も減る可能性があります。
リフィル処方箋導入のデメリット
リフィル処方箋の発行によるデメリットについても、確認しておきましょう。
変化に気づけない
診察をする医師の立場からすると、患者様の変化を診ることは大事なことです。
しかし、患者様の中には、診察することを「薬をもらうために仕方のないこと」と捉えがちです。
こうした診察離れは、患者様にとってはメリットであっても、医師としては病気を見落としてしまうきっかけになりかねません。
日頃の何気ない診察でも、ちょっとした話の中に重大なことが隠れていたり、付き添いの家族から話を聞くことなどもあると思います。
変化がないと患者様が決めつけないように、診察の大切さは理解していただきたいですね。
門前に調剤薬局のないクリニックは厳しい
調剤薬局は、患者様が選ぶことができます。利便性を考えるとクリニック前の調剤薬局を選択するケースがほとんどです。
門前の調剤薬局であれば、お互いに情報交換がしやすく先述のような「変化に気づけない」ということを減らすことができます。
しかし、門前に調剤薬局がなく、もしくは患者様に「かかりつけの調剤薬局」がある場合、情報交換がスムーズにできない可能性があります。
この情報交換の方法については、診療報酬のルールとして明確にされていませんが、今後は決められる可能性があり、それによって業務が増えることがあります。
こうした後々のことを考えると、クリニック側が厳しい立場になることもあるので、慎重になります。
クリニック経営からみるリフィル処方箋
リフィル処方箋の仕組みからみるメリット、デメリットが確認できたところで、クリニック経営として「リフィル処方箋を発行するか」を考えてみましょう。
減収が考えられる
現時点のルール、情報からみると、リフィル処方箋による増収は見込めないようです。
減収が考えられる理由はこちらです。
受診回数が減る
リフィル処方箋にすることで、必然的に来院回数が減ります。そうなるとクリニック全体の再診人数が減るので、再診料の減収となります。
指導料、管理料の算定が減る
リフィル処方箋の対象患者様は、慢性的な疾患の患者様となるケースがほとんどです。
そうした患者様には、診察、経過観察によって算定できる指導料、管理料があります。再診料より点数も高いですから、こちらの減収は厳しいです。
繁忙期の減収
慢性的な疾患以外に、繁忙期の患者様の来院数が減ることも考えられます。
分かりやすい疾患ですと「花粉症」です。
一定期間であること、ほとんどの患者様は症状が変わりません。一度の診察で繰り返し薬がもらえることは患者様にはメリットしかありません。
再診料など点数は低くても、繁忙期の来院数を考えるとこちらも痛手になります。
対象患者の選別
患者様の希望、相談によってリフィル処方箋とする流れが自然ですが、判断する医師としても難しいところではないでしょうか。
明確な基準がない
具体的な判断基準がないことで、先述したようなデメリットを考えると、患者様の希望だからといって簡単に発行することは難しいです。
調剤薬局でも判断される
リフィル処方箋の発行を決めるのは医師ですが、調剤薬局側が意義を伝えることができます。
経過観察が必要だと思われる患者様がリフィル処方箋を調剤薬局に提出した場合、そこで相談が入ります。
普段からコミュニケーションが取れていれば、こうしたやり取りもスムーズに進みますが、慣れない相手(薬剤師)からの場合は上手くいかないこともあります。
さらには、クリニックではなくても患者様をお待たせすることになるので、いなくして評価を下げることも考えられます。
受診必要性が薄れる
最も怖いのは、患者様の受診に対する理解が低くなることです。
極端な例を挙げるなら、一度受診すればリフィル処方箋でずっと薬がもらえるという勘違いです。
・初診でも一度診察をすれば薬がもらえる
・診察は数ヶ月に一度でいい
・そもそも薬いらないかもと自己診断する
こんな患者様がいないとも限らないので、診察することの重要性は日頃から伝えていきたいところです。
まとめ
新しい診療報酬点数のリフィル処方箋についてご紹介しました。
今回のリフィル処方箋は、強制力があるものではないので、クリニックでも対応は違ってきます。
患者様の中でも制度を知る人は少ないことも考えられるので、希望される方も少ないという見方もあります。
何をきっかけで知るかが不透明なだけに、一気に需要が高まることも考えられます。
いつでも丁寧に患者様に説明ができるように、ご自身はもちろん、スタッフにも貴院での対応について伝えて、トラブルがないように声をかけていきましょう。