歩行や動作の補助のために一役買っているのが、「手すり」です。公共の場や住宅などで見かけますが、もちろんクリニックにも必要な設備となります。
手すりの役割は多く、使用目的によって違うだけでなく高さや太さにも違いがあります。今回は、手すりの種類や設置する位置など、あまり知られていない部分についてご紹介します。
バリアフリーとは
クリニックの建物に求められるものとして、「バリアフリー」であることは外せません。
バリアフリーとは、高齢者や障害者の人たちが日常生活を送る上で、歩行や動作などに支障をきたすものを無くすことをいいます。
バリアフリーの考え方としては、「今ある障壁(バリア)を除去する」ことを意味します。
例えば、ドアや道などにある、ちょっとした段差です。いわゆる健常者にはなんの問題なく通ることができますし、つまずいても自分の力でバランスをとることができるので、怪我も不便なこともありません。
しかし、杖や車椅子を利用する人にとっては、大きな障害物です。筋力のない足では段差を超えるのも困難ですし、車椅子も角度をつけるなど一手間いります。
こうした状況を解消するために、考え実践することをバリアフリーといいます。
配慮があるのとないのでは、全く違うので、当事者にはもちろんですが、介護、介助する人の助けにもなります。
ユニバーサルデザインとは
バリアフリーと合わせて聞くのが、ユニバーサルデザインです。同じように使いやすさにこだわったことに違いはありませんが、大きく違うことがあります。
バリアフリーは、特定の人のために改善したり、配置することをいいます。
ユニバーサルデザインは、全ての人が使いやすい環境にすることをいいます。
つまり、ユニバーサルデザインには、そもそも障壁(バリア)がなく、限られた人のためにあとで調整する必要はないという考え方なのです。
今回取り上げる手すりの場合だと、後付けをすることはもちろん可能ですが、他の部分に支障がでることも考えられます。クリニックを建設する時に最初から取り入れるという方向で進めれば、そのように設計されるので、廊下、トイレ、ドアなど全てが対応した形となります。
2つの役割をもつ手すり
クリニックには、実にさまざまな手すりがありますが、それぞれに役割がありますが、その役割は、転倒防止と歩行や動作を円滑にする、2つに分けることができます。
それぞれの役割について確認しておきましょう。
転倒防止になる
歳を重ねるごとに運動機能が低下していきます。
特に足の筋力が低下すれば歩く時に足が上がらないので、引きづるような歩き方となります。そうなると、私たちが気にならないような段差でもつまずくようになり、転倒するリスクが高くなります。
また、クリニックであれば高齢者以外にも、一時的に歩行が困難となる病気や怪我をしている人ので、多くの患者様の転倒防止にも役に立ちます。
歩行や動作を円滑にする
クリニックでは、患者様や介護するご家族など多くの方が利用します。それらを考慮して、廊下、トイレ、入り口などを利用しやすいように手すりが設置されます。
これは、転倒防止というだけでなく、立ち上がりなどの動作がしやすいようになります。一人でも利用しやすい環境を用意しておくだけで、自信となり利用しやすい場所として認識されます。
手すりの種類と特長
手すりの大きな5つの特長があります。
・滑りにくい
・触れやすさ(気温による変化)
・衛生面
・屋外で使用する場合の材質
・安全性(強度など)
補助を必要とする方にとって、手すりはただ手を添えれるだけではなく、しっかりと握り締めます。そのために使用する材質には、上記のような条件がクリアできるものを使用します。
また、設置する場所が屋外である場合は、天候によっても影響されるので、そちらへの配慮も考えたいところです。そして、手すりは役割と同様に、種類についても2種類に分けることができ、それぞれに特長があります。
歩行補助の手すり
クリニックで歩行補助の手すりが設置される場所としては、廊下・階段・入り口となります。
廊下や階段の場合は壁に設置され、入り口はスロープの長さに合わせて設置されます。
歩行補助の手すりの特長
歩行補助の場合は手すりを握ったままではなく、手を滑らせるように移動していくため、握りやすい形状する必要があります。
大きく3つの形状に分けることができます。
・円形
・楕円形
・平坦
誰もが握りやすいサイズとして「直径30~40mm」の間を基準としています。また、平坦なタイプにした場合は肘を置くこともできるので、調子の悪い時や休憩の際に使用することができます。
また、手すりを設置する高さについては、クリニックの患者層によっても違います。
・高齢者や大人が多い場合は、高さ75cm〜85cm
・子供が多い場合は、高さ60cm〜65cm
(いずれも床からの高さ)
背が低い方や、車椅子を利用する方には、子供と同じ高さの方が使用しやすいとされています。
動作補助の手すり
動作補助の場合は、一連の動きの一つ一つがしやすいようにと考えれています。そのため、手すりの配置に特長があります。
クリニックの場合は、主にトイレや洗面周りがその対象となる場所です。
歩行補助の手すりのように長さは必要ありませんが、細かく配置することが求められます。
・I型手すり(縦と横タイプあり)
・L型手すり
・洋便器用の手すり
・洗面器用の手すり
筋力が低下していたり、半身に麻痺があると、体位を維持したり次の動作へ移るだけでも、困難が生じます。
その際に、手すりを掴んで体を動かしていきます。また、I型手すりの縦タイプの場合には、体動だけでなくドアの開閉時にも役に立ちます。
動作補助の手すりの特長
手すりの太さとしては、歩行補助の手すりと同様に、「直径30~40mm」が基準とされています。
そして、動作補助目的で使用する縦タイプの手すりが役に立つことが証明されています。
縦タイプの手すりは、本人が座位となる場面で体を上下する時に使用されますが、それ以外にも介護者が着衣を直したり、車椅子に座らせる時に、摑まりながら立位を保持させることができます。もちろん人によりますが、この立位を可能とするだけで介護者の負担を軽減させることができます。
手すりを設置する高さですが、標準とされる高さはありません。運動機能や麻痺や保持できる体位に合わせて設置されます。
クリニック入り口では、最近は減少してきましたが、靴を脱いだり土間の段差がある場合があります。
その際は、椅子を用意しておき、そこに合わせた位置に手すりを設置しましょう。椅子に座ったり立ったりするにはL型の手すりが理想的です。
トイレに設置する場合には、便座までの手すりと座る時と立つ時のための手すりが、それぞれに必要となります。特に便座横に手すりを設置する場合には、動作の邪魔にならないように、便座から、20cm〜25cmほど高い位置に横手すりがくると、問題なく利用できます。
最後に洗面所周りには、洗面器だけを囲むように手すりを設置することが望ましいです。
杖を利用している方も、かけて置くことができますし、体を支えることもできます。また、車椅子の方も利用できるように、横幅は少し広めにしておきましょう。
その他の手すりと特長
クリニックでは、こうした歩行や動作の補助として手すり以外にも、手すりを必要とする場面があります。
それは、リハビリです。
脳疾患や骨折などで、体に障害が残ったり後遺症があり、上手く動かせない状態になることがあります。障害や後遺症の程度にもよりますが、機能回復や日常生活で少しでも体を動かせるようにサポートする訓練を行うのが、リハビリです。
歩行訓練には、平行に置かれた手すりの間を歩いていきます。左右あるいは、片側の手すりを掴みバランスを取りながら自立した歩行を目指します。
その他にも、座位からの立ち上がり訓練や、自宅での入浴などあらゆる場面を想定したリハビリを、手すりを使用しながら行います。
現行の医療制度では、リハビリを行える日数や場所が限られてしまうため、リハビリができるクリニックには、注目が集まります。標榜する診療科にもよりますが、整形外科や内科には「リハビリテーション科」を標榜してリハビリ室を設けているところも多いようです。
まとめ
いかがでしたか?
手すりについて、役割や種類、特長についてご紹介しました。
体が健康な状態でいると、手すりの必要性がいまいち分からないこともあります。
でもイメージしてみてください。体調が悪い時に、「大丈夫ですか?」「お大事にしてください」といった声かけのサポートが嬉しいように、突然のめまいや発作、発熱など気分がすぐれない時には、普段なら目にも止まらない手すりが、ありがたく感じられる時が必ずあります。
誰か特定の人だけに用意されたものと考えず、お互いに必要なものとして目を向けてみましょう。