クリニック開業は医師としてのキャリアにおける大きな転機ですが、これまでに経験のない経営面においては不安なことが多くあるのではないでしょうか?
クリニック開業初期の集患に苦労し、黒字化までに時間がかかるケースが少なくありません。
実際に、新規開業クリニックの約4割が1年以内の黒字化に苦戦しているといいます。
しかし、立地の特性を正確に把握し、その強みを最大限に活かした集患戦略を実行することで、開業から6カ月という短期間での黒字化も十分に可能だといえます。
今回は、開業への不安を払拭するために「立地調査の基本から地域医療ニーズの発掘、そして具体的な集患術まで」をご紹介します。
クリニック開業前に行うべき立地調査の基本
クリニック開業の成否を大きく左右するのが立地選びです。
単に人通りの多さや家賃の安さだけでなく、さまざまな観点から立地を評価することが、今後の集患や地域での受け入れに直結します。
立地調査は、クリニックの長期的な成功の土台となる重要なプロセスであり、開業計画の最初期段階から十分な時間と労力を投じる価値があります。
人口動態調査とマーケティング
立地調査の第一歩は、候補エリアの人口動態を徹底的に分析することです。
国勢調査データや自治体が公開している統計情報を活用し、年齢別人口構成、世帯構成、昼夜間人口比率などを調査します。
例えば、小児科を開業する場合は子育て世代の多い地域、整形外科であれば高齢者人口の割合が高いエリアが有利となります。
さらに具体的な戦略としては、こんなことが考えられます。
開業前に周辺1km圏内の年齢別人口構成を分析する
↓
開院予定地の高齢者の割合が県平均より高いことが分かる
↓
生活習慣病と高齢者医療に特化したクリニックとして開業する
↓
約3カ月で目標患者数を達成
調査の結果を活かして、ご自身の専門とする診療科目との相性を考えてみるのも分かりやすいです。
この他にも
・通勤・通学ルート上にあるか
・公共交通機関からのアクセスはどうか
・駐車場の確保は可能であるか
患者の来院しやすさを多角的に評価しながら、ターゲットとする患者層の生活動線を理解することで、診療時間や診療内容の最適化を考えてみることをお勧めします。
競合クリニックの配置と特色分析
同じ診療科のクリニックがすでに多数存在する地域では、差別化が困難になる可能性があります。
競合調査では、半径1〜2km圏内の重点的に調べてください。
リサーチする内容としてはこちらになります。
・同診療科クリニックの数
・各クリニックの特色
・診療時間
・口コミ評価
リサーチした内容をもとに「競合にはないサービスや診療や治療」などが見えてきます。
ここで競合との差別化を分析してください。
競合が多い地域であっても、他院が対応していないニーズを見つけることで、自院の強みとなる差別化ポイントを提供することができます。
地域医療ニーズを発掘する3つのアプローチ
立地調査と並行して欠かせないのが、地域医療ニーズの正確な把握です。
地域によって求められる医療サービスは大きく異なり、その地域特有のニーズに応えることが、クリニックが地域に受け入れられ、早期に黒字化するためのポイントとなります。
地域医療ニーズを効果的に発掘するための3つのアプローチ方法をご紹介します。
地域住民の年齢層と疾患傾向の把握
地域住民の年齢構成や生活習慣に関するデータは、どのような疾患が多く見られるかを予測することが可能です。国や自治体が発表する年齢別の健康データなどを活用して、地域特有の疾患傾向を分析してみましょう。
その他に、地域の主要産業や職業分布も重要な情報です。
・工場が多い地域では労働災害関連
・オフィス街ではストレス関連疾患
職業環境に関連した健康ニーズが高まる傾向があります。
地域特有の医療資源の不足点を見極める
地域にどのような医療資源が不足しているかを把握することで、自院の診療内容やサービスを考えるヒントとなります。
ここ注意して欲しいのは「同じ診療科が少ないから安心」ということではなく「どんな診療分野やサービスがあり不足しているのか」を考えるということです。
・耳鼻咽喉科はあるが、補聴器適合検査ができるクリニックが少ない
・若い世代が多い地域だが、お産ができる産婦人科が少ない
・整形外科は多いが、MRIを導入しているクリニックがない
このように、クリニックが対応できていない時間帯や診療内容を特定し、そこから効率的な差別化と集患を考えてみましょう。
自治体や地域団体との連携可能性
自治体の健康増進計画や医師会の活動、地域包括ケアシステムの取り組みなどを調査して、地域住民との関わり方を確認してみましょう。
最近では医師会への加入を控えるクリニックもありますが、地域の学校、企業、福祉施設などとの関わりを通じて自身のクリニックの認知度を上げ、自然と選ばれる関係構築を築くことも重要です。
こうした地域のイベントに参加することで、地域の健康課題や在住者、在職者の現状を知るなど、リアルな情報収集ができます。
開業初期から実践する7つの立地活用型集患術
実は、クリニック開業後の最初の6カ月は、その後の経営を左右する重要な期間だといわれています。
せっかく良い立地を選び、地域のニーズを把握していても、具体的な集患戦略がなければ患者数の増加には結びつきません。
ここでは、立地の特性を最大限に活かした7つの具体的な集患術をご紹介します。
立地特性に合わせた診療時間の設定
診療時間については、立地によって人の流れは大きく変わります。
・駅前やオフィス街では朝の通勤前と夕方の帰宅時間帯
・住宅地では日中や週末に需要が高まる
このような人の流れを徹底分析し、診療時間に反映させることが重要です。
地域コミュニティへの積極的な参加
地域に根付いたクリニックとなるためには、医療の提供だけでなく、地域コミュニティの一員としての存在感を示すことが重要です。
町内会や商店会の活動、地域のお祭りや健康イベントへの積極的な参加は、クリニックの認知度と信頼性を高める絶好の機会となります。
全てのイベントに参加することは難しくても診療科に合わせて
・小児科・・・地元の子育てサークルや保育園の健康相談会に協力する
・内科・・・地元開催の健康フェスタに出店する
ご自身の専門を活かして参加されると、クリニックだけでなく医師としての人柄も伝わりやすくなります。
周辺施設との相互紹介システムの構築
クリニックの立地周辺には、潜在的な患者紹介元となる施設が数多く存在します。
・薬局
・介護施設
・フィットネスクラブ
・美容院
健康や美容に関連する施設との連携は特に効果的です。
特にフィットネスクラブについては、予防医療の観点からのアプローチで集客をしているところも少なくありません。
「健康寿命」という言葉が広まりつつある中で、会員向けの運動器検診や怪我予防セミナーを実施してみるのも効果が期待できます。
オンライン予約と情報発信の最適化
現代の患者はインターネットで医療機関を検索し、評価する傾向が強まっています。
特に若年層や働き盛り世代にアプローチするためには、オンラインでの存在感が欠かせません。
実際に、多くのクリニックで見られるのは「オンライン予約」です。24時間対応というクリニックが増えつつあります。
最近、クリニックでも増えているのがこちらです。
・Googleマイビジネスの登録
・医院ホームページにSEO対策をする
さらには、SNSでの定期的な健康情報発信も新規患者獲得への戦力となっているようです。
クリニックも認知度を上げていくことが安定した経営のために必須となりつつあります。
地域特性に合わせた専門性のアピール
どんな診療科であっても、地域特性を考慮した専門分野を持つことは、差別化と集患に大きく貢献します。
立地調査で把握した地域の特性や患者層のニーズに合わせて、医師の専門性をどう打ち出すかを戦略的に考えることが重要です。
患者満足度を高める院内環境づくり
患者様が一度来院しても、院内環境や受付対応に不満があれば再来院につながりません。立地による来院患者層の特性を考慮した院内環境づくりは、リピート率を高めるために欠かせないことです。
・産婦人科のキッズスペース
・小児科の隔離可能な待合室
こうした機能的な部分は口コミでも広がっていくので、再来院だけでなく新規の患者様の獲得につながります。
口コミを促進するフォローアップ制度
初診の患者様を継続的な来院につなげ、さらにその患者様から新たな紹介を得る仕組みづくりは、集患の好循環を生み出します。
患者様一人ひとりに対するきめ細かなフォローアップと、紹介を促す仕組みの構築が鍵となります。
・オンラインでの予約
・LINE公式での健康情報の配信
・時事ネタに合わせた感染予防の話
さりげない気遣いを意識して、受付や院内の掲示を利用して伝えていきましょう。
開業6カ月目までの黒字化ロードマップ
クリニック開業から黒字化までの道のりを計画的に進めるためには、明確なロードマップが必要です。
全ての取り組みについて結果から情報を分析して、改善や対策を考えていくことが重要です。
押さえておきたいポイントはこちらです。
・月次の目標患者数の設定と評価
・収支計画の継続的な見直しと調整
・初期投資回収までの経営判断ポイント
一回のチャレンジでうまくいかないことも多いと思いますが、試行錯誤を繰り返すことでクリニックの経営を学ぶことができるので、諦めずに取り組んでください。
まとめ
クリニック開業から6カ月で黒字化を実現するためには、立地調査と地域医療ニーズの把握を土台に、効果的な集患戦略を実行することが不可欠です。
ご紹介した7つの立地活用型集患術は、多くの成功事例に基づいた実践的なアプローチであり、どの診療科でも応用可能な普遍的な戦略です。
そして、開業医として成功するためには、単に医療の質を高めるだけでなく、地域に根付き、患者や地域住民から信頼される存在になることが重要です。
ご紹介した7つの戦略を総合的に実践することで、開業初期からの安定した集患と早期黒字化が可能になります。
さらに、開業6カ月目までの黒字化ロードマップに沿って、経営者としての資質を鍛えていくことも必要です。長期的にも持続可能なクリニック経営の基盤を確立していきましょう。
クリニック開業を目指して具体的な戦略を考えて、6カ月で黒字化ができるクリニックを目指してください。