クリニックの開業を考える際「テナントで開業するか、それとも自社物件を取得するか」という選択は、医師にとって大きな決断となります。
それぞれに異なるメリット・デメリットがあり、資金計画や診療スタイル、将来的な運営方針によって最適な選択肢が変わってきます。
テナント開業は、比較的スムーズに開業できることや、初期費用を抑えやすい点が魅力ですが、長期的な賃料負担や契約条件による制約も考慮しなければなりません。
一方で、自社物件での開業は、設計の自由度が高く、資産形成の面でのメリットがあるものの、初期投資が大きくなり、立地選定の慎重な判断が求められます。
また、近年では医療モールの増加や診療のデジタル化、不動産市場の変動など、クリニックの開業環境にも変化が見られます。こうした時代の流れの中で、どの開業スタイルが自院に最適なのかを見極めることが大切です。
今回は、テナント開業と自社物件開業の違いを比較し、それぞれのメリット・デメリットを整理した上で、最新のトレンドを踏まえた開業のポイントを解説します。
テナント開業のメリット・デメリット
クリニックの開業において、テナントを活用する方法は多くの医師が選択する手段の一つです。
特に初めて開業する場合や、リスクを抑えてスタートしたい場合に適しています。
ここでは、テナント開業のメリットとデメリットについて整理していきます。
初期費用を抑え、スピーディーに開業できる
テナント開業の最大の魅力は、初期費用を比較的抑えられる点です。
建物を購入する必要がないため、土地取得費や建設費の負担がなく、設備投資にかかるコストも最小限に抑えやすくなります。
また、契約から開業までの期間が短縮できるため、早期に診療をスタートさせることが可能です。
メリット
- 土地購入や建設費が不要で、資金計画が立てやすい
- 契約から開業までのスピードが早く、早期収益化が可能
- 駅前や商業エリアなど、集患しやすい立地を選びやすい
- 医療モールの場合、相乗効果で集患しやすい
賃料負担や契約条件に注意が必要
テナント開業は初期費用を抑えられる一方で、毎月の賃料や共益費が継続的なコストとして発生します。特に、好立地の物件ほど賃料が高くなる傾向があるため、ランニングコストが増加するリスクもあります。
また、契約内容によっては、退去時の原状回復義務や、競合クリニックの出店制限(競業避止義務)の有無も影響してきます。
デメリット
- 賃料や共益費が固定費として発生し続ける
- 契約期間や更新時の賃料改定に注意が必要
- 原状回復義務により、退去時のコストがかかる可能性
- 競業避止義務がない場合、近隣に競合クリニックが出店する可能性
テナント開業を選ぶ際は、賃料や契約条件を事前にしっかりと確認し、長期的に安定した運営ができるかどうかを見極めることが重要です。
自社物件で開業のメリット・デメリット
クリニックを開業する際、自社物件を取得して開業する方法も選択肢の一つです。
土地を購入し、自由に設計できるため、理想のクリニックを実現しやすいのが特徴ですが、そのため初期投資が大きくなるという側面もあります。
ここでは、自社物件開業のメリットとデメリットについて整理していきます。
長期的な資産形成ができる
自社物件開業の大きなメリットの一つが、クリニックの建物や土地が資産として残る点です。
賃料を払い続ける必要がなく、将来的には売却や相続といった形で資産運用が可能になります。
また、建築段階から設計に関与できるため、診療科目や診療スタイルに合わせた理想的なクリニックを作りやすくなります。
メリット
- 土地・建物が資産として残り、長期的な財産形成が可能
- 設計の自由度が高く、診療内容に適したレイアウトが実現できる
- 賃料負担がなく、長期的な経営の安定性が高い
- 開業後の移転リスクが低く、地域に根ざした医療提供がしやすい
初期投資や経営リスクが高くなる
自社物件開業は、土地購入や建設費用がかかるため、初期投資が大きくなる点が最大の課題です。
また、開業後に診療圏の変化や人口減少などの影響を受けても、簡単に移転することができません。さらには、融資を受けて開業する場合は、金利や返済計画も慎重に検討する必要があります。
デメリット
- 土地購入や建築費用が必要となり、初期投資が大きい
- 一度開業すると、移転が難しく市場の変化に対応しづらい
- 建物の維持管理コストがかかる(修繕費・固定資産税など)
- 金融機関からの融資を受ける際、事業計画の慎重な検討が必要
自社物件開業を検討する場合は、将来的な資産形成の視点だけでなく、長期間にわたって安定した運営が可能かどうかを考慮することが重要です。
近年のトレンドと選択のポイント
クリニック開業を取り巻く環境は、時代とともに変化しています。
近年では、医療モールの増加や診療のデジタル化、不動産市場の動向などが、開業のスタイルに大きな影響を与えています。
ここでは、最新のトレンドを踏まえ、テナント開業と自社物件開業の選択ポイントについて解説します。
医療モールや複合施設内の開業が増加
ここ数年で、商業施設内や医療モール内にクリニックを開業するケースが増えています。
特に、複数の診療科が集まる医療モールは、患者様にとって利便性が高く、相乗効果による集患が期待できるため、開業の選択肢として人気が高まっています。
トレンドの背景
- 異なる診療科が集まり、患者様の流れを生み出しやすい
- 既存の施設に入居することで、開業コストを抑えやすい
- 商業施設内では、買い物ついでの来院が期待できる
- 駐車場やアクセスの利便性が高い立地が多い
資産形成かフレキシビリティか、経営方針による選択
クリニックの開業スタイルを決める際には、「長期的な資産形成を重視するか」「フレキシブルな経営を優先するか」という視点が重要になります。
テナント開業が適している場合
- 資金に余裕がなく、開業コストを抑えたい
- 将来的に移転や拡張の可能性を考慮したい
- 駅前や商業施設内など、集患しやすい立地を重視する
- 医療モール内で他の診療科と連携を図りたい
自社物件開業が適している場合
- 長期的に地域医療に根ざし、安定した経営を目指す
- 設計の自由度を活かし、理想の診療環境を作りたい
- 将来的に医療法人化や事業承継を視野に入れている
- 賃貸物件の制約を受けず、自由な診療スタイルを確立したい
開業スタイルを決める際には、単にコストだけでなく、将来のビジョンや経営戦略を考慮することが大切です。
まとめ
クリニック開業における「テナントか自社物件か」の選択は、単に費用比較だけでは決められない重要な岐路です。
開業前に、先輩医師の話を聞き、何度も物件を見学しても、結局は、実現したい診療スタイルと長期ビジョンが決め手となったというケースが多いようです。
そして、以下のポイントをバランスよく考慮することが大切です。
- 診療スタイルとの整合性:あなたが提供したい医療には、どちらの形態がフィットするか
- 資金計画:無理のない開業と持続的な経営ができるか
- ライフプラン:家族の将来や引退後の計画との整合性
- 地域特性:開業予定地の人口動態や競合状況、患者層の特徴
アドバイスなどは参考程度にして、あなただけの「正解」を見つけて、理想の医療を実現してください。