医院やクリニックの開業・リニューアルの際、建物の安全性も重要視したいところです。少し大袈裟に言い方かもしれませんが、患者様の生命を預かる大切な施設だからこそ、万が一の災害時にも機能を維持できる、安心できる建物であって欲しいです。
そこで、今回は「地震・火災・水害への対策について」、クリニックの建物、建設の観点から多角的にご紹介していきます。
備えるべき災害対策は3つ
災害時における医療機関は、適切な処置や治療をする拠点として多くの人が集まってきます。大規模な病院であれば、トリアージを行い、治療優先順位を決めて速やかに対応していきます。
では、クリニックにはどんな役割があるのでしょうか?
大規模な病院と同様に、地域の患者様、治療を必要とする人たちが集まってくることは間違いありません。
そして、診療時間内であれば院内には患者様がいらっしゃるので、安全に守る義務があります。
可能な範囲での対応ができるように、安全性の高い建物であることは必須条件だといえます。
日本において考えられる災害は、主に「地震・火災・水害」です。万が一災害に遭遇した場合には、それぞれの災害に合わせた備えが必要となります。
地震対策は建物の耐震性を確保し、安全な環境を整える
医療施設に求められるのは、何よりも高い耐震性能です。建物の構造設計がポイントになります。柱や梁を適切に配置し、建物全体で地震の揺れに耐えられるようにします。さらに、免震構造や耐震構造を取り入れることで、地震の影響を最小限に抑えることができます。
建物内部の安全対策も重要です。医療機器や什器類の転倒防止策をしておきましょう。固定器具で壁や床にしっかりと固定することで、地震時の被害を防げます。天井材や照明器具の落下防止対策も忘れないでください。
また、自分たちで対策を考えて備えるだけでは不安が残ります。不安を解消するために、耐震診断を行い、建物の弱点を把握することも有効です。どんな建物でも経年劣化してくるので、建材などの強度は落ちていきます。
診断結果に基づいて、必要な補強工事を検討していくのも良いきっかけになります。実際、自分たちでは対策ができないレントゲンや CT などの大型医療機器がある場合は、耐震診断や医療機器メーカーにアドバイスをもらうなど、特に入念な対策が必要です。
患者様が安心して治療を受けられるよう、待合室や診察室の家具配置にも配慮が必要です。転倒や落下の危険がある物は避け、動線を確保しましょう。
そして、スタッフが冷静に対応できるように、災害時のパニックを防ぐための誘導サインや、非常時用の対応マニュアルを作成したり、行政によるマニュアルを入手しておくのもオススメです。
火災時に被害を最小限にする対策
火災はわずかな時間で大きな被害につながります。初期消火の体制を整え、避難経路を確保することが重要です。自動火災報知設備や消火設備の設置は必須。スプリンクラーや消火器を適切に配置し、定期的なメンテナンスを欠かさないようにしましょう。
避難経路は、誰もがスムーズに避難できるよう、動線を考えて計画します。理想としては、診察室や処置室、その他の部屋でも、 2 方向以上の避難ルートを確保することです。2階以上の建物の場合は、非常口や階段の配置にも気を配ります。火が燃え広がらないように、防火扉や防火シャッターの設置も検討しましょう。
内装材や家具には、防炎性能の高いものを選ぶことで安心できます。小児科の待合室や靴を脱ぐクリニックでは、カーテンや絨毯などにも注意が必要。電気配線の安全性にも気を配り、過電流による発火を防ぐ対策を考えてください。
消防署との連携も大切です。消防用設備の設置基準や、避難計画の作成など、専門家のアドバイスを受けながら進めてください。医療機関では、最低でも一年に一回は消化器の位置や避難経路など火災時に安全に非難ができるのか点検が入ります。
日常業務の中で、知らず知らずに荷物が避難の邪魔になっていることもあるので、点検を通して改めて火災のついて考えるきっかけにしてください。
何よりも、火災発生時の初期対応が火災被害の大きさを変えていきます。まずは、スタッフ全員が消火器の使い方を習得し、迅速な消火活動ができるよう訓練しておきましょう。また、患者様の避難誘導体制を整え、安全な場所への移動をスムーズに行えるようにしておくことが肝心です。
水害対策は長雨による浸水被害を最小限に抑える
近年、局地的な大雨や洪水などの水害が増えています。医院・クリニックが浸水被害を受けると、医療機器を使用することはできませんし、医療機関として機能しません。
これは水害だけではなく、どんな災害でも同じですが、クリニックがクリニックとしての機能を維持できる災害対策が必要です。
クリニックの機能を維持するための対策として有効なのが、電気設備や重要物品を高い位置に設置・保管すること。そして、非常用電源や排水ポンプの準備も欠かせません。
建物の立地選びの際は、ハザードマップを確認し、浸水リスクが低い場所を選ぶことで建物の安全性が高くなります。ここ数年の雨の降り方は尋常ではありません。例えば、2、3日降り続く雨量が一か月の雨量に匹敵するほどです。一般的に備えている対策だけでは間に合わないことが考えられます。止水板や土嚢など、これまで「必要かな?」と悩むレベルだったかもしれませんが、浸水を防ぐ資材として必ず用意してください。
そして、床上浸水に備えて、建物の構造を工夫することも可能です。
- ピロティ構造にすれば、1 階部分の浸水を防ぐ。
- 重要な設備や物品は 2 階以上に配置する。
- 非常時の垂直避難を考慮した設計を検討する。
浸水に備えた日頃の備品管理も忘れずに行ってください。そして過去の紙カルテや薬剤など、重要なものは高い位置に保管することをお勧めします。最も、最近開業したクリニックなら電子カルテは導入済みだと思いますが、現在も紙カルテの場合には電子カルテシステムを導入し、データをクラウドで管理することも検討していきましょう。水害に強い医療施設づくりは、建物設計と日頃の備えの両面からアプローチすることが重要です。
災害時も医療を止めない
地震・火災・水害など、災害時には電気・ガス・水道などのライフラインが寸断されるリスクがあります。医院・クリニックの機能を維持するには、ライフラインのバックアップ体制を整えることが欠かせません。
非常用発電機の設置は最も重要な対策の一つ。停電時にも必要な電力を確保できるよう、適切な容量の発電機を選定しましょう。燃料の備蓄も忘れないでください。
ガスについては、プロパンガスや LP ガスへの切り替えも考えてみてください。都市ガスより地震の影響を受けにくいというメリットがあります。
断水に備えては、受水槽の容量を十分に確保してください。飲料水や医療用水の備蓄もクリニックにとっては必要です。治療に必要な材料だけでなく、簡易トイレや非常用水袋など、衛生面の備品も用意してください。
ライフラインのバックアップ体制を整えることで、クリニックでも災害時に医療を止めずに継続できる強靭な医療施設となります。
安全は患者様と医療スタッフを守る
地震・火災・水害など、災害は予期せぬ時に起こります。医療施設が万全の備えを整えておくことは、患者様とスタッフの安全を守ることにつながります。ハード面の対策とともに、日頃からの防災訓練や連絡体制の確認など、ソフト面の取り組みも考えてください。
クリニックの開業やリニューアルの際は、建物の安全性にもしっかりと目を向けてみてください。立地選び、構造設計、設備計画など、多角的な視点から災害に強い医療施設づくりを目指しましょう。
建物の安全性を考えることは、長く綺麗に保つことにもつながります。外壁などは汚れが劣化につながり、強度を下げていきます。安全性に関する点検から気づくことは多くあります。どちらも、開業時の状態を維持することは不可能なので、より気にかけていくことを大切にしてください。