医療事務の仕事は、患者として受付の外から見ているのとは違い、受付の中で実際行っているのは決して楽な仕事ではありません。患者の立場でいけば、診察券と保険証を提出した後は、診察の順番を待ち、診察が終われば、会計を待てばいいわけですが、保険証を受け取った医療事務員はその後どんな業務にとりかかるのかを紹介します。
初めて受診される患者様が来院されたときは、患者様のカルテを作成します。
お預かりした保険証の内容をレセプトコンピュータに入力
レセプトコンピュータ(医事会計ソフトの入ったコンピュータ。以下レセコンと略します)
普段保険証の内容をよく見たことがないと思いますが、その中には治療費を請求するための重要な数字や記号が印字されています。
保険者名称、保険者所在地、保険者番号、保険者記号、被保険者番号、氏名、生年月日、有効期限(または発行日・取得日)、被保険者本人または家 族の区分、事業所所在地、事業所名……等。
国保・社保によって印字されている内容が違いますが、どれ一つ入力を間違えても、保険者から該当者なしという通知が来て、請求漏れとして、残りの七割(社保本人の場合)を治療費請求分としていただけなくなります。
また、再診患者様にも月に一度保険証(正式には被保険者証といいます)の提示をお願いします。勤めていた会社が変わっていたり、国保から社保になったり、年齢が一歳増すことで、負 担金の変更があったりするからです。
保険証内容の入力の他に新規の患者様には問診票の記入 をお願いします。
中には面倒だという意識から既往疾患があっても記載していただけない患者様もいらっしゃいます。医療事務員は、できるだけすべてを記入していただくように患者様にお願いします。
保険証には患者様の住所が印字されていないので、問診票に書いていただきます。住所にしろ、お名前にしろ、読みにくい名称は必ず本人に読み方を確認しましょう。
最近は特にお子様の名前は読みにくくなっています。いわゆるキラキラネームといわれる名前です。
従来からある名前でもいくつもの読み方がある漢字には自分の思い込みで患者様の名前入力をしないように注意しましょう。
例)
神野さん : こうのさん、じんのさん、かみやさん、かみのさん、しんやさん……?
小原さん : こはらさん、おばらさん、おはらさん……? 幸さん : みゆきさん、さちさん、こうさん……?
漢字変換ができない字はカタカナ入力でも構いません。ただ読み間違い入力は違う方になってしまいます。
保険証内容をレセコンに入力するとともに、保険証をコピーまたはスキャン
これをカルテに貼り付けます。これは入力間違いがあったときに後で確認できるようにするためです。
診察券を作成
手書きの施設と、印字の施設があります。
問診票を回収
診療所によっては、回収した問診内容をレセコンにあらかじめ入力しておくのも事務員の仕事となっている所もあります。例えば内科ですと、いつから、どこが、どのように、痛い……。
体温、身長、体重、血圧の数字入力等も事務員の業務としている診療所があります。
カルテ(保険情報)ができると、診察室へ送ります
ここまでが、診察前の医療事務員の仕事です。診察、注射、検査、処置……等が終わると医師が診察した内容を記入したカルテが受付に帰ってきます。
受付に帰ってきたカルテ内容を確認して、本日の保険点数を計算
医療機関では一つひとつの診療行為に国が決定した金額が定められています。窓口で会計をするときは患者様から○○円いただきますと円での単位で受領しますが、会計に至るまでの金額は《点》という言葉で表現します。
例えば、平成二十八年四月から平成三十年三月の間は、初診料は二百八十二点と定められて います。点滴注射の手技料は九十八点と定められています。一点は十円という意味です。
円に直すと初診料は二千八百二十円。点滴手技料は九百八十円という意味です。
この点数に患者様 ごとに決まっている負担率をいただきます。
初診料の例でいいますと、二百八十二点×三割= 八十四・六点=八百四十六円→四捨五入して八百五十円が自己負担金となります。
なお、平成二十八年四月から平成三十年三月まではという表現をしたのには意味があります。 医療の技術料は二年に一度見直しがされるからです。
十年経つとまったく違う、と先の項目で お話ししましたが、二年に一回点数改正があるということは、十年のうちに五回の点数が改正 されたということを意味します。
診療の手技料だけが改正されるのではなく、お薬の請求点数 も二年ごとに見直されます。古くからあるお薬はどんどん価格が下がります。私が医療業界に 入ったころよく使用されていたABPCという薬効に分類される抗生物質があったのですが(昭和五十七年)、そのころの請求価格は一錠が百九十二円程度でしたが、二年ごとに価格が下 がり、平成二十八年四月改正のときの点数改正ではついに十円程度になりました。
実に四十年間で十分の一以下になってしまいました。 国の目指す医療政策で新設されるもの、点数が上がるもの、下がるものが毎回出てきます。
お薬の値段は毎回基本下がります。検査の回数・種類が無制限に認められていた時代がありましたが、回数制限が設けられるようになりました。
入院患者を減らすために在宅診療(往診)を実施したときの点数を増やしています。小児科医・産婦人科医が少ないと判断した年は小児科・産婦人科の点数を高くし、医療経営がプラスになるような改正をします。看護師さんの給与改善支援のため、看護師が行った業務に対して点数を増やしました……等。二年ごとの改正
会計計算ができると、患者様の診察券、保険証、お薬、薬剤情報提供書(または処方箋)、 診療情報明細書、領収書を印刷し、全てが整ったら患者様を会計窓口にお呼びします
会計内容の説明、院内処方の場合はお薬の説明も事務員がすることもあります。その他の作業として、次回の診療予約申し込み案内をするケースもあります。
全ての診療が終了すると、当日の売上明細(日計表)を発行
売上と窓口徴収金額があっているかをチェックします。ここまでが、日常の窓口業務です。
レセプト作成業務を実施
これが医療事務員にとって最も重要な業務の一つです。一か月間に来院された(入院された)患者様ごとに、点数の集計をします。患者様一人ずつの診療内容を確認し、保険者ごとにそれを集計し、社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会に集計したものを送付することをレセプト業務といいます。
チェックの内容としては、保険証の番号等の入力ミスがないか? 病名が記入されているか? 誤った点数請求がされていないか?……を患者様一人ずつチェックしていきます。修正があればここで直します。
最近はチェックをかけてくれる機能がついたコンピュータもあり、ひと昔前より医療事務員さんのチェックに要する時間的負担が軽減されるようになりました。ただし、レセプト請求は診療した月の集計を翌月八日または十日までに送付する必要があります。機械化されて便利になったとはいうものの、月末から月初めはその作業を窓口業務と平行または時間外に実施することになるので、忙しくなります。
機械化されていない昭和の時代は、レセプト期間は毎日帰りが夜中になるといわれていましたが、今はそういうことはほとんどなくなりました。
診療所においてはこれらの業務を基本全員で実施することになりますが、大病院では上記業務の一部のみを専任で行います。受付担当、カルテ作成担当、カルテ運搬担当、検査予約担当、会計計算担当、会計処理担当、診療補助事務……。中には患者様と全く顔を合わせない部署もあります。
出典:医療事務を目指す方へ勉強する前に読んでほしい本