クリニックの理念の決定はとても難しいものです。理念とは院長のクリニックの理想を端的に現したものになるのですが、それを言葉にすることはクリニックの一生を決めることでもあり、頭を悩ますことになります。
ここでは、そんな経営理念の作成方法から浸透のさせ方までをお伝えしていきます。
クリニックにおける経営理念の意義とは
開業にするにあたり、院長には様々な想いがあるでしょう。どんなクリニックにしていきたいか、頭の中には考えがあってもそれを文章にするのはなかなか難しいものです。
ですが、明確な文章として表現できるまで思案を重ねてみてください。
経営理念とは、クリニックの「責任」「目的」「使命」「経営姿勢」などを明文化したものです。クリニックの存在意義を表現しています。
経営理念がきっちり決まっていると、開業にまつわる様々な実作業を行っていく上でも有利に働きます。
例えばスタッフの採用時、大切なクリニックの一端を託すのですから、他のクリニックより待遇が良さそう、雰囲気が良いから、等のありがちな理由での応募者よりも、苦労も喜びも分かち合える高い志を持った人に集まって欲しいですよね。もし応募時に経営理念をしっかりと掲げていれば、熱い気持ちで賛同してくれる人も集まるでしょう。
きちんと決めた経営理念は、様々な経営判断をする際の、クリニックが進むべき方向を決める軸として機能します。
経営理念を作る目的
経営理念を作る目的は、競争環境に打ち勝つためです。競争環境を打ち勝つ成功要因は他のクリニックとの差別化ですが、その差別化の源泉が経営理念です。
しかし、それ以外にも下記の目的があります。
・患者さまへ方針の伝達
・スタッフとの意識統一
・地域住民や取引先への方針の明示
・地域社会での存在価値の明示
・経営管理体制の整備による安全性の確保
こういった目的をふまえて経営理念を作ります。
経営理念を作るポイントと気をつけること
経営理念を作る際のポイントは3つあります。
経歴から目指す姿を表す
経営理念はクリニック経営が続く間、変わることはないものです。
・クリニックは何のために存在しているか
・クリニック経営の目的は何か
・どのような方法で行うか
これらを明確にしていきます。
スタッフの行動指針となる
スタッフの行動指針とな理、クリニックへの帰属意識を向上させることが必要です。勤務中、判断に迷ったとき、適切な行動を選択する基準は経営理念となります。
どのような考え、どのような知識、どのような技術を持って成長してほしいか、院長からスタッフへの想いを書き出してみましょう。
できる限り表現はシンプルにする
患者さんや関係者へのメッセージ、スタッフへの想いをたくさん表現することになります。書き出した中から必要な部分だけを抜粋し、院長らしい表現に仕上げます。
たくさんのメッセージよりもシンプルなメッセージ、院長の心からのメッセージが一番伝わりやすいと考えましょう。
また、経営理念を作る中で気をつけたいことがあります。
よく「地域医療に貢献し、地域住民の健康増進に寄与します。そして患者中心の医療を展開します」というような理念を掲げているクリニックがあります。
きちんと明確にしているのはよいことですが、果たしてこれが本当にそのクリニックのミッションであるかとなると、これではまだ詰め切れていません。
このような理念はどの病院にも通用するもので、そこからは差別化できる独自の戦略はなかなか出てきません。
自身のクリニックはどういう医療を担おうとしているのか、そこを突き詰めて考えるようにしましょう。
理念をスタッフへ浸透する方法
クリニックの経営理念がきちんと明確になったとしても、それがスタッフに浸透しなければ効果は期待できません。経営理念を浸透させるためには、院長がスタッフとコミュニケーションをとり、機会がある度に伝えていく必要があります。
経営理念は入職時に説明しただけでは理解されるものではないと捉え、下記のポイントを意識して積極的に伝えていきましょう。
クリニックの理念が出来た理由や背景を伝える
院長が理念に込めた意味や想い等を伝え、スタッフの理解と共感を得ます。
院長自らが理念に沿った行動を率先して行う
院長自らが行動規範を率先して実践し、模範となることによって、理念浸透に向けスタッフの理解と信頼を深めます。
理念にふれる機会を増やし、繰り返し伝えていく
理念を掲示し、朝礼等で唱和し共有する機会を設けます。また、院長が節目等の折に理念を伝えていきます。
理念に基づいた具体的な行動を評価する
人事評価制度等を活用し、理念に沿った行動をしているかを評価の対象として、その結果についてもフィードバックを行います。
経営理念の見せ方
明確に決まった経営理念はさまざまな場所で見せることで活用していきます。「どこで見せるか」「誰に見せるか」考えていきましょう。
<場所>
・クリニック外:看板、建物壁面、広報誌、ホームページ
・クリニック内:待合室、お手洗い、カウンセリングルーム、診療室、院長室、スタッフルーム
<誰>
・患者さん、スタッフ、地域住民、取引先、関係者
場所と誰を想定したら、どのように見せるかを考えます。
下記に例で説明していきます。
<待合室の場合>
誰に:患者さん、地域住民、取引先、関係者
見せ方:クリニック紹介の掲示覧に掲示、クリニック案内等のパンフレットへの記載、情報発信ディスプレイへの表示
<診療室・カウンセリングルームの場合>
誰に:患者さん、スタッフ
見せ方:額縁等での真剣な決意を感じる表現、患者さんの権利も並列で表現
<院長室・スタッフルームの場合>
誰に:院長、スタッフ、関係者
見せ方:日々の忙しい診療で忘れがちになる本来の目的を院長の自筆で表現
このように「どこで見せるか」「誰に見せるか」によって、経営理念の見せ方は異なります。短いキーワードは様々な場面で目にふれます。とはいえ、本来の目的を深く理解するには、それまでの経緯や考え方を説明しなければなりません。
まとめ
経営理念は、院長のクリニック開業の想いをきちんと明文化し、そして時間をかけて深く浸透させていくことが大切です。そこにかける時間を惜しまず、ブレない軸のあるクリニック経営を目指しましょう。