クリニックの成功は、最新の医療設備や立地条件だけでなく、院長である医師自身のメンタルの安定が重要な要素となります。
日々の診療と経営の両立、患者対応とスタッフマネジメントの間で、多くの開業医が心理的プレッシャーに直面しています。
今回は、10年以上安定してクリニック経営を続けてきた医師たちの共通点を見つけ、心の安定を保つための7つの習慣をご紹介します。
1. クリニック経営者として直面する心理的課題
クリニックを開業した医師は、医療従事者であると同時に、経営者、リーダー、人事管理者としての役割も担います。
「常に正しい判断をしなければならない」という重圧と「患者様とスタッフの板挟み」によるストレス、さらには「プライベートと仕事の境界線の曖昧さ」が特に顕著です。
これらの心理的課題は診療の質の低下や不安定な経営となり、最悪の場合は医師の燃え尽き症候群からクリニック閉鎖に至ることもあります。
医師個人の資質もありますが、完璧主義の医師ほど悪循環になってしまうようです。
・全ての業務に高い基準を求めてしまう
・スタッフの頻繁な入れ替わり
・ご自身の不調が続く
これらが要因となり長期休業や閉院を考える傾向にあるようです。
長期的な安定経営を実現するためには
・完璧を求めすぎない
・権限委譲する
・自分の時間を確保する
というマインド的な部分をおろそかにしないことがポイントとなります。
2. 長期安定経営を支える7つのメンタル習慣
成功するクリニック経営には医学的な専門知識や経営スキルだけでなく、医師自身の内面的な習慣も重要な役割を果たします。
10年以上にわたって安定したクリニック経営を続けてきた医師たちの共通点には、次のような7つのメンタル習慣があることが挙げられます。
これらの習慣は日々の診療の中で少しずつ培われ、長期的な経営の安定と医師自身の幸福感を高めてくれるものです。
まずは、医師が主体的に取り入れることで、スタッフと患者、そして医師自身にとっても良い影響をもたらすことができます。
習慣1：自己認識と感情管理
自分の感情状態を認識し、適切に管理する習慣を身につけます。
クリニック経営者として、患者様のクレームやスタッフのミス、経営状況など、さまざまな場面で感情が揺さぶられます。
感情による揺さぶりを減らすためには
・朝の診療前に5分間の「感情チェック」を行う
・感情的になりそうな場面では「深呼吸3回」を実践する
感情に左右されない判断が、一貫性ある医療と経営の基盤になります。
習慣2：明確な境界線の設定
仕事と私生活の境界線を明確に設定します。
多くの開業医が「いつでも医師」状態に陥りがちです。
地域に必要されるクリニックになるにはプライベート削ることも避けて通れないと考える医師もいますが、それでは体力と精神に限界を感じることになります。
・診療時間外の電話は緊急時以外翌日対応
・土日は家族時間の確保
・地域活動は月1回までに制限
こうしたルールを設けることで、一人の人間として生きやすさを保つことができます。
明確な境界線は医師自身の回復と長期的な診療の質維持に不可欠です。
習慣3：プロフェッショナルな距離感の確立
患者様とスタッフとの適切な心理的距離を保ちます。
過度に感情的に関わると、客観的判断が難しくなり、医師自身の心理的負担も増大します。
大規模な病院と違い、クリニックでは医師と患者様の距離がとても近くなります。患者様によってはいろいろと世話をしたくなる人もいらっしゃいます。
この曖昧さはありがたい反面、ありもしない噂話に発展して双方に迷惑になることがあります。
ですから、ご自身の中で一線を引く必要があります。
例えば、こんな感じに考えてみてください。
「患者様の痛みや不安に共感することは大切ですが、同時に専門家としての視点を失わないようにしする」
さらには、スタッフとの関係も同様に「仕事上の飲み会は月1回程度に限定」するなど経営者としての立場を確立してください。
習慣4：継続的な自己成長
医学知識だけでなく、人間的成長も追求します。
長期的に成功している開業医は、経営者としての知識や対人スキル、自己理解の面でも継続的に学び続けています。
まずはさまざまなことに興味を持つようにしてみましょう。
・医療とは異なる分野を勉強してみる
・月に1冊はビジネス書や心理学の本を読む
医学以外の分野から学ぶことで、患者対応やスタッフマネジメントに新しい視点が生まれる可能性もあるから、気分転換がてらに始めてみることをオススメします。
習慣5：スタッフへの信頼委譲
スタッフを信頼して、適切に業務を委譲します。
多くの医師が「自分でやった方が早い」と業務を抱え込みがちですが、長期安定経営を実現している医師は適切に委譲する習慣を持っています。
言葉でいうほど、簡単にはできないかもしれませんが、ご自身が体調を崩したり、一人での限界を感じた時のことを考えてみましょう。そんな時でもクリニックが維持できるのはスタッフへの信頼です。
意外なことに「任せてみると皆さん期待以上に成長し、私が思いつかなかった改善策を提案してくれることもある」と好感触を得ている医師が多いようです。
習慣6：失敗からの学びの姿勢
失敗を恐れず、成長の機会として捉えます。
医療現場では「失敗は許されない」という意識が強いですが、長期安定経営の医師は「失敗」を学びの機会として捉えています。
慣れないクリニック経営、新たに導入したシステムなど、最初から上手くいくことはありませんから、ここでも完璧を求めすぎないようにしましょう。
失敗を過度に恐れるとイノベーションが阻害され、ストレスも増加します。こうした失敗を共有して、スタッフとも「学び」として捉えられるようにすると、間違えることを恐れずに業務をすることができるようになります。
習慣7：自己ケアの優先
自分自身の心身の健康を優先することは医師の責任です。
「医師である前に一人の人間」という認識を持ち、自分の健康を意識的にケアすることが長期的な質の高い医療提供の基盤となります。
特に健康的な生活を心がけてみましょう。
・毎朝のウォーキング
・ジム通い
・月1回の「デジタルデトックス」
こうしたことが自分の健康のためでもありますが、患者様への説得力にもなるので、長く続けることを伝えるようにしてみましょう。
3. メンタル習慣を日常に取り入れる具体的方法
理論を理解することと実践することには大きな隔たりがあります。
特に多忙な医師の日常では、新しい習慣を取り入れることが難しく感じられるかもしれません。
しかし、長期安定経営を実現している医師たちが実践しているのは、いずれも短時間で無理なく日常に組み込める小さな習慣ばかりです。
下記に紹介する具体的方法は、どれも5～15分程度で実践でき、診療の合間や日常のルーティンに自然に取り入れられるものばかりです。小さな一歩から始めることで、長期的には大きな変化をもたらします。
長期経営の医師たちが実践している具体的習慣事例
- 朝の5分間自己チェック：診療前に心身の状態を確認する時間
- 「感謝ノート」活用：日々の診療で感謝できることを3つ記録する習慣
- 深呼吸の習慣化：患者様の入れ替わり時に意識的に3回深呼吸をする
- 「パレートの法則」実践：全業務の中で最も重要な20%に集中し、残りを委譲
- 「ノー」と言う勇気：キャパシティを超える依頼は丁寧に断る練習をする
- デジタルサンセット：就寝1時間前は電子機器から離れる習慣をつける
- 週1回の「思考の時間」：クリニック経営を俯瞰的に見直す時間を確保
これらの習慣はそれぞれ5～15分程度の短時間で実践でき、日常診療に無理なく組み込めます。
全ての習慣を一度に取り入れようとせず、最も必要と感じるものから1～2つ選んで少しずつ習慣化していくアプローチが効果的です。
まとめ：患者とスタッフと自分を幸せにする医師の在り方
クリニック経営の長期的成功には、医師自身のメンタルの安定が不可欠です。
ご紹介した7つのメンタル習慣は、医師自身を守るだけでなく、患者様への医療の質向上、スタッフの定着率アップ、クリニック経営の安定化につながります。
「医師である前に一人の人間」という認識を持ち、自分を大切にすることが、長期的な質の高い医療提供の基盤を築いていきましょう。
クリニック開業は医師としての新たなステージの始まりです。
建物や設備と同じように、あなた自身というクリニックの最も重要な資産を守り、磨き続けることが、10年、20年と続く成功の鍵となるのです。
