近年では、院外処方が当たり前になってきましたが、院内処方に戻したいという考えの医師の方も少ないといいます。
患者様が診察後にそのまま薬を受け取れるため、移動の手間が省けることは大きな魅力です。
しかし、薬剤在庫の管理や薬剤師の配置、スペースの確保など、実際に運用していく上ではクリアしなければならない課題も多く存在します。
特に、建物の設計段階で調剤カウンターや薬剤保管室のレイアウトを検討しなければ、後々になって改修工事に費用や時間を取られてしまうことも考えられます。
また、院内処方を行うことで患者様にかかる費用が院外処方より増減するかどうか、あるいは選定療養の扱いがどのように変わるのかなど、患者様の利便性を高めたい一方、クリニックの収益や経営コストとのバランスも慎重に考える必要があります。
そこで今回は、院内処方のメリット・デメリットから選定療養のポイント、そして院内処方に戻すことで得られる効果や患者様の反応まで、知っておきたい情報をわかりやすくご紹介します。
院内処方のメリット・デメリットを押さえる
院内処方のメリット:ワンストップ医療とコストの把握
院内処方は、患者様が診察を終えたその場で薬を受け取れる利点があります。
忙しい方やお子様を連れた患者様にとっては、わざわざ薬局へ移動する手間が省けるため、大きな魅力となることが多いです。
そして、クリニックにおいても医師やスタッフとのコミュニケーションが一貫して行えるため、投薬に関する疑問や不安をその場で相談できるのも安心につながります。
また、クリニック側としては調剤から会計までを一括管理しやすく、薬剤に関するコストが可視化されやすいという特徴があります。どれだけの薬がどのペースで処方されているかをデータとして把握しやすくなるため、経営面でも在庫管理や収益の見通しを立てやすくなります。
院内処方のデメリット:薬剤管理リスクと患者負担
院内処方では、クリニックが薬剤を常備しておく必要があるため、スタッフや薬剤師の配置をはじめ、保管環境やセキュリティの確保など運用面での負担が増す可能性があります。
特に、多種多様な薬を取り扱う場合は在庫管理が複雑になり、スタッフ教育も欠かせません。もし、薬の在庫を切らしてしまったり、調剤ミスが起きたりすると、患者様からの信用にも影響を及ぼします。
さらに、薬剤の仕入れや管理コストが増える場合には、結果として患者様の負担が増えることがある点も考慮したいところです。
どこまでクリニックの経営努力で吸収できるのか、患者様が納得できる費用設定なのかといったバランスは、事前のシミュレーションと試算が必要となります。
院外処方との比較:実際にかかる費用や時間
院外処方の場合、患者様は処方箋を持って外部の薬局へ行くため、追加の移動や待ち時間が発生します。
一方で、薬局は専門の薬剤師が常駐しており、調剤ミスを防止するための体制が整っているケースが多いので、薬に関する相談にも細かく応じてもらいやすいという声があります。
費用面では、院内処方と院外処方では保険点数や薬価の計算方法が異なるため、一概にどちらが安いとは言い切れません。クリニックとしては、患者様の利便性と金銭面を総合的に比較し、自院の診療形態や経営方針に合った方法を選ぶことが重要になります。
院内処方の条件と選定療養の理解
院内処方に必要な主な条件:薬剤師配置と管理体制
院内処方を行うには、まず薬剤師の配置が必要になります。調剤行為を担う専門家として、薬剤師が常駐することで医薬品の品質や処方の安全性を確保できます。
薬剤師がいない場合は院内処方が認められないケースが多いため、雇用計画の段階からしっかりと検討しておきたいところです。
加えて、薬剤に適した保管や在庫管理の体制も欠かせません。温度や湿度を適切に保つ専用の保管庫、患者様が安全に待機できるレイアウト、スタッフ間の連携など、院内で薬を扱う環境を整えるためには管理面と物理的な設計の両面で準備が必要になります。
選定療養とは
選定療養とは、保険診療の枠組みに含まれないサービスを患者様の同意を得て提供する際、その費用を実費として負担していただく仕組みのことです。
院内処方の場合は、特定の薬剤や特別な設備を用いる際に選定療養が関わるケースがあるため、患者様に十分な説明を行い、理解していただくことが大切になります。
また、選定療養に該当するかどうかの判断を誤ると、医療保険上のトラブルにつながる可能性があるため、事前に保険制度や関連するガイドラインをしっかりと確認しておく必要があります。
患者様から質問を受けることもあるかもしれませんので、対応マニュアルやスタッフの知識向上にも力を入れると安心です。
先発薬品への自己負担
令和6年10月1日より薬について新たな選定療養が発生することになりました。
現在、日本においてはジェネリック薬品を積極的に処方するように推進しています。これは、薬品の開発や研究などに費用がかかるため、成分や効能、効果が同じように期待されるジェネリック薬品を活用することで、費用を抑えたい傾向にあるからだといわれています。
ですから、上記の期日より「患者様自身の都合による先発薬品の処方には4分の1の自己負担」が選定療養費として課せられるようになりました。
こうした背景から院内処方に関しても、通常とは異なる特殊な薬剤を扱う場合や、特別な調剤サービスが求められる場合に選定療養の対象となることがあるため、クリニックの方針に合った形で無理のない運用計画を立てることが大切になります。
院内処方へ戻す理由と患者様の反応
院内処方へ戻す背景:クリニック経営と患者様へのサービス
院外処方が主流になった経緯として、クリニック側の管理負担を減らし、専門の薬局でより高度な調剤サービスを提供するという流れがありました。
しかし近年、一部のクリニックでは患者様の利便性を最優先に考えて、院内処方へ戻す動きが見られます。特に、高齢の患者様が多く通院するクリニックでは、診察後に薬局へ移動する負担が大きいことが理由に挙げられます。
経営面でも、薬剤の購入と在庫の管理を適切に行うことで利益率をコントロールできる可能性があるため、院内処方を選択することがクリニック経営の安定につながると考えるケースもあるようです。
開業時に院外処方を導入したものの、結果的に患者様の要望を受ける形で院内処方に切り替えるケースも珍しくありません。
患者様の声:利便性・安心感への評価
院内処方は、患者様の移動や待ち時間を軽減できるメリットが大きいことから「体調が悪いときにわざわざ外へ出なくて済む」「医師や看護師と直接話しながら薬を受け取れるので安心」といった声が多く聞かれます。
特に、日中忙しい方や小さなお子様連れの方には負担が少なく、クリニックに対する満足度を高める要因になりやすいようです。
また、院内処方であれば診察から処方までを一貫して行うため、医師とのコミュニケーションが途切れずに薬を受け取れると感じる患者様もいます。投薬に対する疑問点や不安なども、その場で確認できるのは安心材料の一つになるといえます。
院内処方に適したクリニックの特徴
規模や診療科目:院内処方で活かせるクリニック環境
院内処方が効果的に機能するかどうかは、クリニックの規模や診療科目によって左右されることが多いです。
特に、患者様の受診頻度が高い小児科や内科などでは、薬局へ移動する手間が省ける分、患者様や保護者の方から「通いやすい」という評価を得やすくなります。
院内処方を行う際には、診療科目に合わせた薬の品揃えや管理計画が重要になるので、日頃の処方パターンを洗い出しておくとスムーズに導入できるかもしれません。
また、患者様の人数に対して待合スペースや調剤カウンターの広さが適切に確保されていれば、院内が混雑し過ぎることを防ぐことができます。快適に薬を受け取りやすい空間を整えることで、院内処方の利便性を最大限に活用することができます。
スタッフ体制と在庫管理:導入時の注意点とポイント
院内処方を安定して運用するためには、スタッフ体制が整っていることが欠かせません。
薬剤師や看護師、事務スタッフが連携して業務を分担することで、調剤ミスの予防や待ち時間の短縮が期待できます。
患者様への丁寧な説明やアフターケアにまで気を配れるような仕組みがあれば、クリニックの評価も高くなります。
一方で、在庫管理の厳重さは院内処方ならではの課題になります。
誤って薬を切らしてしまうと、患者様だけでなく医療の提供にも支障を来すため、定期的な在庫チェックや薬剤発注の流れを明確にしておくことが大切です。
導入前には、必要なスペースや設備を見極め、スタッフがスムーズに作業できる動線を確保しておくと安心かもしれません。
まとめ
院内処方を導入するかどうかは、クリニックごとに考慮する要素が異なります。
診療科や患者様の層、スタッフ体制、施設の規模などを踏まえて、自院に合った形で運用できるかどうかを見極めることが重要です。
メリットとしては患者様が移動せずに薬を受け取れる利便性や、クリニックの収益管理がしやすい点が挙げられます。
一方で、薬剤在庫を抱えるリスクやスタッフ配置、スペース確保といった負担も増えるため、準備段階から運用後までの見通しをしっかりと立てる必要があります。
また、選定療養や薬剤師の常駐など、法律や医療制度のルールを理解しておくことも欠かせません。
院内処方に戻すクリニックが増えている背景には、患者様の利便性や医師とのコミュニケーションの一貫性といったメリットが再評価されている部分があるようです。
もし、院外処方から切り替えを検討している場合は、まずは必要となる条件や導入コストを明確にし、クリニックの運営方針に合わせた方法で患者様にとってより良い医療を提供できるかどうかを、一つ一つ確認していきましょう。
こうした準備と検討を十分に行うことで、院内処方を取り入れたクリニックのメリットを最大限に活かすことができます。