近年、超高齢化社会と医師不足が深刻化しています。
医療を最適化するために、24時間どこでも質の高い医療を受けられる体制を構築することが求められています。
また、大学病院が新患の情報をひとつひとつ把握しながら治療を進めていくことは、医療提供の非効率化に繋がります。
これらの背景からクリニックによるプライマリ・ケアが注目されています。
さらに、2025年4月に施工予定の「かかりつけ医機能報告制度」により医療体制が一層強化していくでしょう。
当記事では、プライマリ・ケアの概要や地域医療で求められる役割などについてご紹介します。
プライマリ・ケアの概要
プライマリ・ケアは、多くの文献でさまざまな定義がされています。
さらに、簡潔にすべての内容を包含することが難しく、状況によって意味合いや解釈が異なる場合があります。
その定義は、米国国立科学アカデミー (National Academy) が公開している以下の文献などに記載されています。
いずれもオンラインで英語の原文を無料で読むことが可能です。
一読することをお勧めします。
- 「Primary Care: America’s Health in a New Era (1996)」の32ページ~
- 医学研究所報告書の「A Manpower Policy for Primary Health Care (1978)」の15ページ~
これら文献では、プライマリ・ケアの特徴について「統合的かつ身近な医療」と強調されています。
プライマリ・ケアの概念「ACCCA」
プライマリ・ケアは、「ACCCA」の概念をすべて意識して実践することにより成立します。
「ACCCA」とは、以下の5つの頭文字を取った総称を指します。
この質を高めることがプライマリ・ケアを提供する上で必要不可欠です。
近接性(Accessibility)
近接性(Accessibility)とは、医療に対する以下4つの障壁を克服するためのサポートや、プライマリ・ケア提供者の責任を指します。
- 地理的 : 医師と患者の距離が近い
- 経済的 : 医療費などの負担のバランスがとれている
- 時間的 : 治療や診断までの時間の少なさ
- 精神的 : いつでも気軽に相談できる
患者がいつでも利用しやすい身近な医療を追求していくことが求められています。
包括性(Comprehensiveness)
包括性(Comprehensiveness)とは、あらゆる日常的な健康問題のトラブルを避けずに対処する意思や能力を指します。
プライマリ・ケアを専門に担う医師は、全科にわたって多角的な視点で患者を診療することが求められます。
適切な予防により、疾病の発生や重症化のほか、医療費などの負担を抑えることに繋がります。
協調性(Coordination)
Coordination(協調性)とは、プライマリ・ケア提供者と他の専門家が協力することを指します。
プライマリ・ケア提供者は、専門家と連絡をとるための代理人として役割を担っています。
さらに、適切に下記などを実施することが求められます。
- 適切な専門家へ紹介
- その専門家へ患者の情報を提供し、意見をもらう
- それらの診断や治療を患者に説明
高度な治療が必要な場合、プライマリ・ケア提供者は、他の医療機関や多職種、行政などと連携する力も重要です。
地域のネットワークを広げることで幅広い視点から患者のニーズに応えていくことができます。
継続性(Continuity)
継続性(Continuity)は、「臨床の継続性」と「記録の継続性」に分けられます。
「臨床の継続性」とは、医師や医療チームが長期間にわたり患者のケアに携わることを意味します。
また、「記録の継続性」とは、継続的に患者に関わる中で健康に関するさまざまな情報を効果的に提供することを意味します。
患者一人ひとりに合わせた医療サービスを提供し続けていきましょう。
責任性(Accountability)
プライマリ・ケア提供者は、患者が十分な情報を得た上で判断できるように、適切な情報を提供する責任があります。
治療のリスクや望ましくない治療結果を詳しく説明することが必要不可欠です。
また、責任性(Accountability)はあらゆる仕事で求められています。
この概念を念頭に置き、十分に患者の悩みや要望を把握した上で医療サービスを提供しましょう。
地域医療(都市部~地方)におけるプライマリ・ケアの役割
現代日本は、ほとんどの地域で高齢化が進み、プライマリ・ケアを必要としている地域が拡大していると言えます。
プライマリ・ケアを提供することにより、地域医療にさまざまなサポートができます。
都市部
さまざまな専門医療機関が点在する都市部でもプライマリ・ケアは求められています。
一般の患者は、消化器外科や泌尿器科、循環器内科のほか、脳神経外科や心療内科など、かなり専門分化されたレベルの外来まで選択して受診する必要があります。
このため、それぞれの科で検査が重複してしまうことや、いくつかの科にたらい回しされる可能性があります。
プライマリ・ケアにより複数の診療科を繋ぐケアやそのアドバイスなどのサポートができます。
また、大学病院の非効率的な負荷を抑える役割もあります。
さらに、近年は、海外からの流入人口が増加し続けているため、文化的背景を考慮したプライマリ・ケアも重要と言えるでしょう。
地方
循環器や消化器など分野別の専門医療機関が少ない地方では、外来や入院のほか、在宅医療や救急医療まで幅広いカバーが必要になります。
プライマリ・ケアは、へき地に向かうほどより包括性が求められます。
さらに、ケアマネジャー、看護師、薬剤師などの多職種と協力し、地域におけるすべての医療資源を活用することが重要と言えるでしょう。
近年は、独居の高齢者、老老介護などが増加していることが問題になっています。
かかりつけ医機能制度
2023年5月に「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律 (以下、改定法とする)」が成立しました。
この改定法には、「かかりつけ医機能報告制度(2025年4月に施工予定)」を創設することが盛り込まれています。
この制度は、医療機関がどのようなかかりつけ医機能があるか都道府県に報告する制度です。
かかりつけ医機能とは、改定法に「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能」と定義されています。
具体的には、
- かかりつけ医にかかる研修を修了した医師がいるか
- 17診療領域のどれに対応しているか
- 日常的な40程度の疾患へ対応できるか
- 診療時間外の対応は可能なのか
などが該当します。
つまり、この制度を通じて日本のプライマリ・ケアの現状が透明化されることが期待できます。
さらに、地域でプライマリ・ケアを担う医師を確保する策のほか、地域の多職種連携の強化策などの整備を進めることが求めらています。
今後は、プライマリ・ケアを担う医療機関を中心とした医療・介護の水平的連携を構築することが重要と言えるでしょう。
まとめ
現代日本は、超高齢化社会や、国民医療費の急増など多くの問題を抱えています。
人々の身近な立場で健康をサポートするために、医療介護に関わる多職種や行政が一体となった取り組みがプライマリ・ケアの発展には必要です。
プライマリ・ケアが担う役割の重要性は、今後より一層高まっていくでしょう。