新型コロナウイルス感染症によって、世界中が恐怖と混乱の渦に巻き込まれてから早や数か月が過ぎましたが、その勢いはまだまだ衰える様子が感じられません。
行動自粛が叫ばれる最近の二大感染経路は、「家庭内感染」と「院内感染」です。
前者については、家族が同居している場合、防ぐことが非常に難しく、課題は山積です。
後者の院内感染についても、もちろん完全にウイルスをシャットアウトすることは難しいことでしょう。
しかし、新型コロナウイルス感染症の治療に携わる専門の医療機関だけではなく、個人経営のクリニックでもできる感染予防対策としてオンライン診療という方法があります。
今回は、このオンライン診療のメリット、デメリットもご紹介しながら、未来の診療の形として、ひとつの選択肢となりうる理由を説明していきます。
行動自粛により急速に拡大するオンライン化
日本政府から全国に緊急事態宣言が発出されて以降、人々の行動の流れ、生活スタイルは一変しました。
営業自粛要請が出された店舗は、軒並み営業時間の短縮や休止期間を設けるなどの対策をとることを余儀なくされています。
観光地は駐車場から閉鎖され、公共交通機関はガラ空き状態です。
というのも、このウイルスに感染しないためには、ヒトとヒトとの接触を減らすことが有効な手だてとなるからです。
このような事情から不要不急の外出が推奨されている中、様々な業種でオンライン化が急速に拡大しています。
待ったなしの教育現場でのオンライン学習に始まり、テレワークの導入率が上がるのに伴ってオンライン会議の採用も増え、果てはオンライン飲み会という楽しみ方まで生まれてきています。
これらのオンライン化の流れは一時的なもので終わるものでは決してなく、逆に今回の新型コロナウイルス感染症騒ぎに後押しされて、一気に進むものと考えられます。
オンライン診療システムとは
対面診療との違い
オンライン診療は、クリニックに患者が来院して診察室で医師に検査、診察してもらうという、いわゆる通常の診療スタイルである「対面診療」と相対するものです。
患者は通院することなく自宅にいながらにして、パソコンやスマートフォン、タブレットなどの機器を通じてモニターごしに医師に診察してもらうことが可能で、処方せんを出してもらうこともできます。
オンライン診療は、厚生労働省から2018年に出された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に沿って実施することが可能ですが、オンラインで安全に診療を進めるためのさまざまな条件、制限がもうけられています。
しかし、新型コロナウイルス感染症拡大にともない、これらの厳しすぎる条件などの見直しが行われました。
オンライン診療の対象疾患
オンライン診療は、すべての科目、疾患で実現できるものではありません。
手術や直接的な処置が必要な外科、整形外科などではオンラインで対応するのには限界があるでしょう。
ガイドラインによると、糖尿病、高血圧、不整脈、ぜんそくなど定期的に通院する必要のある疾患が定められています。
今回の見直しでは、さらに片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、三叉神経・自立神経性頭痛などの慢性的な頭痛も保険適用とされるので、より多くの方に開かれた診療になるといえそうです。
オンライン診療開始の条件
また、対象疾患だったとしても初診時からいきなりオンライン診療が受けられるわけではありません。
オンライン診療を開始するまでには、同一医師による直近6か月間の対面診療を毎月実施していることなどがガイドラインに明記されており、すぐに実施できるものではなく、普及率が上がらない要因のひとつにもなっていました。
2020年度のガイドラインではこの点も見直され、これまで6か月必要だった対面診療の期間が3か月に短縮されることになりました。
さらに、時限的措置ではありますが、初診からオンライン診療できる場合を特例的に認めたり、ビデオ通話機能のない、電話やFAXなどの通信手段でもオンライン診療としても良いとする条件緩和がなされており、オンライン診療システム自体が刻一刻と進化しているといえそうです。
オンライン診療のメリット
通院の必要がない
オンライン診療にはたくさんのメリットがあります。
その中でも通院の必要がない、ということは患者さんにとって大変助かることです。
具合が悪いときに自分で車を運転したり、公共交通機関を利用してクリニックまで通院するのはつらいものです。
そのうえ、診察まで時間がかかるとなるとなおさらです。
高齢者の中には持病を抱えている方も多く、定期的な受診が必要な場合も多いのですが、クリニックへ毎月通うことそのものがおっくうになったり、家族に送迎してもらう必要性があったり、調子が悪くなって通院が困難になってしまうこともあります。
高齢者はネット機器に不慣れだと考えがちですが、家族や周りのサポートでじゅうぶん対応可能です。
敬遠していた人ほど一度使い方に慣れてしまえば、自宅で受診できる利便性のとりこになるでしょう。
予約システムの24時間対応
オンライン診療を受診するには、オンライン上で予約を取る必要があります。対面診療でも電話やネットで予約を取れるクリニックは増えてはきていますが、あくまでもクリニックの診察時間内での対応、というところが多いです。
対して、オンライン診療の予約はシステム上24時間対応が原則となるので、受診しようと思ったときに曜日や時間に縛られず予約を取ることができるのが大きな魅力です。
院内感染のリスク軽減
対面診療では受診することで逆にほかの病気がうつってしまったら、とクリニックへ行くことを躊躇してしまうことがあると思います。
それもオンライン診療なら、そもそも通院の必要がないので感染のリスクはいっきにゼロになります。
通院時は何らかの疾患により免疫力が低下していると思われるので、他人と接触せずに受診ができることは、自分のみならず、対面診療の必要性があって来院しているほかの受診者の命を守ることにもつながります。
このことは、現在猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症の拡大を防止する一助にもなりうるので、オンライン診療に対する注目度が高まってきている理由ともいえそうです。
会計の手間・待ち時間の削減
来院の必要がないということに付随して、待ち時間、会計にかかる時間や手間も大きく削減できます。
オンライン診療では予約した時間に医師と画面、モニターごしに(現在は時限的に電話など画面がない通信機器での診察も可)診察を受けたあと、会計はクレジットカードなどでキャッシュレス決済になります。
金銭の受け渡しもないので、スタッフの負担、二次感染のリスクも軽減できますね。
受診へのハードルが下がる
診療科目や相談内容によっては、クリニックに出入りするところや、待合室にいるところを他人に見られたくないという患者さんもいます。
オンライン診療ならそのような心配もなく、安心して受診できます。
定期的に通うことが困難で受診に踏み切れなかった人も、オンラインならと受診へのハードルが下がることが期待できます。
ただ、オンライン診療を受診するには前述したように原則対面診療での診察を定期的に、同一医師に診てもらう必要があるので注意が必要です。
オンライン診療のデメリット
インターネット環境、セキュリティ対策の整備が必要
ここからはオンライン診療のデメリットについてご紹介します。
オンライン診療をおこなうためには、医師側、患者側ともにインターネット環境を整えなければ成立しません。
オンライン診療専用のアプリを双方がダウンロードする必要もあります。
同時に、セキュリティ対策も万全にしておかなければ、受診内容などのプライバシー性の高い個人情報が漏えいするおそれがあるので注意が必要です。
また、予約を取る、受診する、会計決済をするなどの一連の流れをすべてスマホやパソコンなどの通信機器を操作する必要性があるので、操作上、システム上のトラブルが起こった際に対応できる力も必要となります。
病状の見逃し、症状の悪化の可能性
オンライン診療がなかなか浸透しないのは、対面診療に比べるとどうしても診察の精度が下がってしまうことが多いということでしょう。
検査や触診ができず、患者の自己申告や画面ごしでしか患者の様子がわからないので、もともと受診している慢性的な症状以外の病状に気づくことが遅れてしまい、重症化してしまうリスクをはらんでいます。
そうなった場合の責任の所在も現在はあいまいで、今後の課題のひとつともいえます。
診療報酬の妥当性
この問題は、オンライン化しているものすべてに言えることかもしれませんが、対面診療に比べて低い点数や算定要件が厳しいことで、結果的に診療報酬が低くなってしまうことです。
しかし、今回の見直しで点数については据え置いたものの、算定できるケースが追加されたことで、オンライン診療の未来は少し明るくなったように感じます。
対面診療の患者とのバランス
今後、オンライン診療が増えてきたときの懸念として、実際にクリニックに来院している患者さんとのバランスがうまく取れないとトラブルの火種になりかねない、ということがあります。
例えばオンライン診療の予約が入っている時間に、そうとは知らず来院した患者さんは必要以上に待ち時間が長くなり、不満度も上がります。
会計にしても、現在の算定方法だと同じ診療内容だとしても金額に差が出てしまいます。
まとめ
日々変わっていく情勢の中で、生活のしかたを根底から変えていかなければならないかもしれない今こそ、オンライン診療について真剣に考えなければいけない時期にさしかかっているのかもしれません。
技術や情報がどんどん進化していくことで、ここではデメリットに挙げた問題点もクリアされていくでしょう。
現在ある入院、外来、在宅医療と連携を図りながらオンライン診療が確立され、普及することを期待したいですね。