数年前までは、開業医としてクリニックを構えれば、安定した事業として経営できると言われていました。
しかし、近年では開業する医師が増えたことで患者様にも選択肢ができ、必ずしも経営が上手くいくとは言えなくなりました。
開業することで医師に負担となるのは、クリニックを運営する経営者としての仕事です。
ライバルのいる中での経営は、医療との両立では片手もとなってしまいます。
そこで今回ご紹介するのは、「医療経営士」という資格です。
クリニック経営に欠かせない知識を備えた有資格者には、どんなことが期待できるのでしょうか?
1.医療経営士とは
医療経営士とは、一般社団法人日本医療経営実践協会が主催する試験に合格し、認定登録された有資格者のことを言います。(同協会に入会しないと名乗ることができません)
医療経営士は、医療機関において医療と経営の知識を持ち、経営の課題に取り組み解決することができる能力を有する人材です。
資格を取得する知識だけでなく、協会のサポートを受けながら実践的に能力を発揮することができるので、安定したクリニック経営をサポートします。
現在、医療経営士は、1級・2級・3級と分かれており、それぞれにおいて医療マネジメント・診療報酬の仕組みと収益など、医療経営に関する基礎から戦略的な経営論まで幅広い知識が必要となっています。
1-1.クリニックに必要な理由
医療経営士の概要にあるように、かなり専門的で幅広い知識を有することから、病院経営を目的とする人材育成でもあります。
では、なぜクリニックの経営にも必要なのでしょうか?
冒頭でも説明したように、開業したら何もしなくても収益を上げられるという時代ではありません。
診療をメインとするクリニックであっても、いずれは在宅医療・介護サービス、将来的には予防医療へと発展していくことが予想されます。
こうした医療行為以外の将来を考え、早くから経営を安定させ次のステップに進むことが必要不可欠となっていきます。
また、近年ではクリニックの事業継承が増えています。
若い世代へと引き継ぐタイミングにおいて、建物や医療機器を一新するクリニックも増えています。
こうしたタイミングは、新たなビジネスチャンスもあるため、医療経営士というプロを交えて行うことで成功させることできます。
医療経営士は、クリニックにもったいない人材ではなく、必要な人材となるのです。
2.医療経営士を雇用するメリット
具体的に医療経営士を雇用するメリットをご紹介します。
2-1.医療と経営の知識がある
通常であれば、外部のコンサルタントと契約をして、経営のノウハウを指導してもらいます。
医療機関を専門とするコンサルタントもいますが、医療経営士は同じように医療と経営の知識があるので、あえて外部のコンサルタントにお願いする必要はありません。
院内のスタッフですから、アポイントメントなしにいつでも打ち合わせすることができます。
また、資格を取得をする人たちは、コンサルタント業務をしている人だけでなく、医療機関において、現場で患者様と接していたり状況が分かっている人や、病院運営に関する事務職においてデータ分析、改善、調査を繰り返しながら業績を伸ばしてきた人もいます。
こうした実績は今後のクリニック経営に役立つので、スタッフとして一人いるだけでもとても心強いものとなります。
2-2.人事や業務運営を任せられる
クリニックも一つの企業と考えれば、人事や業務運営にも力を入れたいところです。
スタッフの人数や配置、円滑に業務をする工夫など、じっくり見ていないことにはできない部分でもあります。
しかし、院長である医師には診療があるため、目が行き届かないところもあります。
そこで医療経営士に任せることで、医師とスタッフの働きやすい環境づくりのお手伝いができます。
2-3.医師とスタッフの関係を円滑にする
どんな業種でも人間関係の悩みは付き物です。
団体に属しているのだから仕方ない割り切れる方もいると思いますが、ギクシャクして優秀な人材を手放すことになるのは、クリニック経営にも影響します。
そこで、普段から働き方を見ている医療経営士がパイプ役となり、お互いの意見を聞き働きやすい職場にすることにも一役買います。
2-4.求人を強化できる
現在、医療機関では看護師、職員など求人を募集しても、応募が来ないということもあります。少しでも良い環境で働きたいと願うのは、誰もが同じです。
そのためには、待遇や報酬など分かりやすい形で伝えるべきですが、少しでも違うと感じれば辞めてしまうケースも出てきます。
こうした悪循環を解決するために、職員の働き方を見直すというは一つの手がかりになります。
経営者である医師には忙しくて対応しきれない部分を、医療経営士が一役買うことで対応したいところです。
働きやすいことが口コミで広がれば、求人に興味を持つ人が増えていきます。また、同じ職業の人にも声がかけやすくなります。
2-5.活躍の幅を広げられる
クリニックで医療経営士を迎える場合には、医師のサポートとして事務長などポストも用意されます。
そうなれば、規模は小さくても権限も与えられるので、自分の実力を発揮できる機会が多くなります。
病院の事務職やコンサルタントとして働くこととは違う経験ができることも実績なります。
3.有資格者のサポート
医療経営士の資格取得ができたら、有資格者を対象としたサポートが受けられます。(協会への登録は必須)
どんなサポートが受けられるのか、ご紹介します。
3-1.資格は3年ごとに更新
医療経営士は、合格後に協会に登録をして初めて「医療経営士」と名乗ることができます。
しかし、3年ごとに更新手続きが必要となります。ただ必要書類を提出するだけでなく、各級ごとに課題が用意されているので、その課題をクリアすることが必要です。
- 3級の更新には、課題図書の精読
- 1,2級の更新には、それぞれに用意されたテーマの中から論文を提出(最低1つ以上)
更新内容からも資格のレベルの高さが伺えます。
3-2.研究会・勉強会の実施
会員向けのサポートには、研究会と勉強会のお知らせがあります。
協会の支部が全国にあり、各支部ごとに研究会や勉強会を実施しています。
常に情報を発信することで、会員は新しい情報の収集ができますし、勉強会でインプットした内容を実務でアウトプットすることができます。
参加に関しては、勤務地や居住地に関係なく全国どこの研究会・勉強会でも参加することができます。
同じ協会に加入するもの同士、意見交換や現場を見学することができれば、より良いものを上司である医師に提案して、取り入れていくことができます。
3-3.情報の提供
協会では、医療経営士の質を上げるために情報提供を行なっています。これは先ほどの研究会・勉強会とは異なり、情報誌の発行と推薦図書の紹介を行なっています。
情報が交錯する中で、協会からの情報発信は信憑性が高く、医療経営士の人たちの役に立ちます。
4.まとめ
医療経営士についてまとめてみました。
医師が開業をして経営者として成功するためには、やはり右腕となりサポートしてくれる存在が必要となります。
そんな時に、外部ではなくスタッフに医療経営に詳しい人物がいること、クリニックの状況が分かる人物がいることは、強みとなり安定したクリニックの経営を行うことができるのです。
クリニックに医療経営士の存在は、身分不相応ではなく今後は必須になっていくと考えます。