病院やクリニックの耐震化が進んでいないことをご存知でしょうか?日本には、古い耐震基準のままで病院やクリニックの診療を続けているところが多くあります。
大規模な地震や災害を経験しながら、そして人々が必要とする医療機関が、なぜ積極的に耐震化を進めていないのでしょうか?
今回は、病院やクリニックの耐震基準や耐震診断の義務など、進まない耐震化について追求していきます。
耐震診断の義務化について
病院やクリニックは、日々多くの患者様の診察や治療に当たっています。
そんな中で、大規模な地震が発生したら、災害によって怪我をした人たちの治療にも入ります。また、市役所などのように対策本部として機能することもあります。
どんな時も頼られる存在であることは、間違いありません。
日常も非日常においても、病院もクリニックもいつもと同じように、診察や治療ができる体制を整えなくてはいけないので、建物はもちろん医療機器や電気、水などの確保が必要となります。
そのために、地震に強い建物であることは、大前提ともいえます。耐震診断や耐震改修を積極的に行ってもらうべく、義務化として法律が改正されました。
耐震改修促進法の改正の流れ
日本で建物を建設するためには、建築基準法にある基準を満たしていることが条件となります。
地震大国とも呼ばれる日本では、過去に大きな地震を何度も経験してきました。そして、その経験や地震の規模から、ある程度の地震を想定して建築物が倒れない基準へと改正を繰り返してきました。
この建築基準法とは別に、耐震改修促進法という法律があります。
これは、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」として制定さています。
現代において、地震の恐ろしさを体感したのは、1995年の阪神・淡路大震災です。建物や道路が崩壊して、あちこちで火災が起きていた光景を、今でも忘れることはありません。
この地震において全壊した建物は、「 旧耐震基準」で建設された建物ばかりでした。
こうした背景から、耐震改修促進法では、病院やクリニック(条件あり)のように、多くの人が利用する、旧耐震基準で建てられた建物を「特定建築物」として、位置付けました。
そして、耐震診断や必要に応じた改修を努力義務と規定してきました。
その後、2013年に改正がされます。これは、2011年に東北地方太平洋沖地震が発生したことが大きく影響しています。
この改正にて、これまで「努力義務」とされた耐震診断などは、耐震診断を行い、結果を報告することを義務化されたのです。
耐震診断の義務化で対象となる病院とクリニック
実は、病院やクリニックには、その規模や建物を階数、入院の有無によって、いくつかに分類されています。
ここでは、耐震診断の義務化が対象となる病院とクリニックについて説明します。
まずは、建設された年月日が、1981年5月31日以前である、病院やクリニックは、全て耐震診断の義務化の対象となります。
なぜ、この年月日なのか?これは、先にもご紹介した「旧耐震基準」との区切りになるところです。つまり、この年月日以前に建設された建物は、全て「旧耐震基準」となり、今後大規模な地震が発生した時に、建物が半壊または全壊する可能性があるということになります。
すでに、耐震改修工事を済ませて、検査済証が交付されている場合には、対象から外されます。
次は、建物の規模を基準とした対象となる病院・クリニックです。
・建物が3階以上ある
・床面積5,000平方メートル以上
こちらに該当する場合、耐震診断を実施して、結果を報告する義務があります。(※2015年12月31日までに行われ、報告がされています)
さらには、大規模な地震の発生時に防災拠点となる病院・クリニックも対象となります。
・防災拠点建築物となる病院・クリニック(都道府県が協定あり)
・避難路沿道建築物となる病院・クリニック(都道府県または市町村が指定した道路の沿道建築物であって、一定の高さ以上のもの)
参照:一般財団法人耐震診断協会
耐震化の現状について
耐震診断の実施と報告を義務化した現在において、病院やクリニックの耐震化はどれくらい進んだのでしょうか?
厚生労働省が平成27年にまとめた結果をみると、建物の全てを耐震性があると答えたのは、69.4%でした。
その他についてこちらです。
・一部の建物に耐震性がある 8.5%
・全ての建物に耐震性がない 1.5%
・建物の耐震性が不明である 20.6%
平成27年は、先ほどの義務化された年と同じなので、不明という回答は減っていると予測されますが、この結果から、耐震改修が進んでいないことが分かります。
耐震化が進まない3つの理由
国が病院やクリニックに対して耐震化を進めているので、厚生労働省からも補助金が用意されています。
しかし、思ったように、耐震化にはなっていません。このままでは患者様や被災者を守るはずの建物が全壊してしまいます。実は、耐震化が進まない理由があります。
方針が決まらない
耐震化の工事となれば、仮の建物を建設して診察を続けるか、もしくは移転先を見つけて新たに建物を建設することになります。
どちらにしても、現在地にてそれほどの広大な土地を所有している病院やクリニックはありませんから、土地探しから始めなくてはいけません。広大な土地ならどこでもいいわけではありませんし、病院・クリニック建設となれば、地域住民への説明会や承諾が必要となります。
残念ながら、厚生労働省の補助金は、そこを対象としていません。
工事なのか、建て直しなのか、なかな方針が決められずにいるというのが現状です。
自己資金がない
病院やクリニックのどちらも自己資金がないことも理由の一つです。
医療は常に進化しているため、患者様を治療したり、集患するために最新の医療機器を購入するなど、黒字経営をしているのは一部の医療機関だと推測されます。
経営状況が苦しい中で、一部の建物が使えない、検査ができないとなると、工事期間の収益は落ちてしまいます。それを保障する制度や補助金もありません。
全てが自己負担というのは、工事をする医療機関へのダメージが大きすぎるのです。
耐震化しても収益は上がらない
国の定めるように、耐震化工事、改修が完了した病院やクリニックになにかメリットがあるかといえば、何もありません。
基準を守ることは当たり前ですが、負担の大きさから考えると、診療報酬点数によって、報酬が得られれば、工事費を回収することも可能なはずです。
病院やクリニックもボランティアではありません。いざという時に機能することも大切ですが、経営を成り立たせ維持させるような工夫も必要なのではと考えます。
まとめ
大規模な地震の光景や、不安であるのは同じなのに、患者様や被災者を助ける医療スタッフの姿を見ると、心打たれます。
そんないつかのために、備えるのは大切なことですが、今回のように耐震化にするための自己負担が大きすぎるではと感じます。
国の財政を考えると手を差し伸べるのは、困難かもしれませんが、何らかの形で協力ができたら、望むような結果が得られるのではと考えます。