クリニック開業までの道のりは長く、そこにはさまざまな落とし穴もあります。思い込みで進めず、どのような落とし穴が潜んでいるのか事前にきちんと確認しておくことが重要です。ここでは、開業時によくある落とし穴について説明していきます。
診療スタイルを明確にせず計画を進めてしまうのは危険
クリニック開業への具体的な行動として、まずやらなければいけないのが「診療方針・経営基本計画の策定」です。要は、どのような患者さんに、何を、どのように提供するのか、を決めることです。
これらを決めることが重要なのは、それが開業に向けてのさまざまな選択をしていく中で指針となる存在だからです。
例えば、開業地選びにしても、一般内科として生活習慣病の患者さんを診ていきたいのか、豊富な内視鏡検査の経験を活かして検査メインでやっていきたいのかでは、対象となる患者層が違うため、物件選びの基準も変わります。
このように、クリニックの開業・経営の土台となる部分なので、これ無しにさまざまな計画を進めてしまうのは危険です。最初に時間をかけて慎重に考える必要があるわけです。
基本的には、「なぜ開業したいのか」「どういう診療をしたいのか」といった開業の動機を掘り下げていくことで、自然と固まっていくものです。
例えば、「身につけた技術を活かしたい」「地域医療に貢献したい」という内容からイメージを深掘って、「1日に何人、または週何人くらいの患者さんを受け入れたい」といった具体的な数字まで考えてみると良いでしょう。
また、収入はどれくらい必要か、どんな風に生活したいのかなど、診療内容以外の要素についても書いていきます。
それらの作業を通して、「どんなコンセプトで、どのような患者さんに、何を、どのように提供する医院を作りたいのか」が見えてくるはずです。
借り入れ金額はできるだけ少なく抑えようは要注意
クリニック開業に必要な資金は診療科目によって異なりますが、おおよそ5000万円〜1億円程度必要と言われています。そのため、ほとんどの先生が金融機関から借り入れすることになります。
ここで注意したいのが、借り入れ金額を少なく抑えようという意識です。一般的な感覚では、借金に良いイメージはないでしょう。そのため「できるだけ借り入れをしたくない」「できるだけ借り入れを早く返したい」と考えがちですが、個人の「借金」と事業上の「借り入れ」はそもそも目的や捉え方が全く異なリます。
事業借り入れの目的は個人の借り入れとは違い、事業を拡大することにあります。つまり、「足りないものを人に借りて補填する」というよりも「借入金を事業投下することで、いかに売り上げや利益を増やすか」という考え方が必要です。
そのため、負債としてのマイナスイメージを持つ必要はありません。それよりも、いかに売り上げや利益を増やす元手に出来るかと考えた方が良いでしょう。
コストばかり意識して見落とす穴
クリニック開業後の成功、つまり利益を確保するためには、コスト(掛かる費用)のことばかり意識するだけでなく、売上(集患)への意識も常に持ち続けることが大切です。
開業準備の中で、集患に対する意識が高いのは「開業場所探し」の段階です。開業場所を探している時は、本当に患者さんが来てくれる場所かどうかといった意識が非常に高くなります。
しかし、開業場所が決まった途端、集患対策への意識が薄まり、先生の頭の中は、家賃・建設費用・融資など、一気に開業コストへの意識に変わってしまいます。
その意識は、開業直前の広告活動の時期までずっと続いてしまうことがほとんどです。これでは開業後に患者さんを集めることは非常に難しくなります。
内装工事中にも、ロゴマーク制作時、スタッフ募集時にも、集患対策への意識は常に持ち続けましょう。
事業計画書でチェックすべき項目
コストばかり意識して見落とす集患対策への意識につながりますが、事業計画書にある「開業前」の宣伝広告費について適切かどうかチェックすると良いでしょう。
患者さんが現在通っているクリニックから自院に切り替えて来てもらうには、ある程度の期間が必要となります。当然そこにはコストが掛かってきますが、その予算が少ない場合が多くあります。
開業には、建設・内装費・医療機器など、多額の資金が必要です。そのため、広告宣伝費が軽視されがちとなります。
どれだけ費用を安く抑えて開業できたとしても、患者さんが来なければそのクリニックは必ず潰れます。患者さんに来てもらい利益を確保するためには、「売上」と「コスト」の両方の意識が必要不可欠です。
メーカーに営業されるまま医療機器を導入するのはNG
「これまでの病院と同じ医療機器を選べばいい」「選定は営業に任せていたら大丈夫」といった意識でいたら危険です。
すでにどのような医療機器を使うのかをだいたい把握していると「思い込んでいる」場合が多いため、わざわざ選び直すことに面倒臭さや不安を感じるのかもしれません。
しかし、使用感や費用面など、あらゆる面で損をしてしまう可能性のある医療機器選定は、見落としがちな重要な事項となります。以下の5つの項目を意識してみると良いでしょう。
(1)実際に触って比較する
これまで働いていた病院で使っていた機器は使い慣れているかもしれません。しかし、他のメーカーの方が使いやすく、機器として優れている可能性があります。「今までと同じメーカーでいい」という判断が、医療サービスの質を落とすことにも繋がります。カタログだけを見て選ぶのではなく、実際に触って比較、きちんと試用した上で選ぶことが重要です。
(2)見本市で最新の情報を収集する
最新の情報をしっかり見比べるには見本市が良いでしょう。多くのメーカーの医療機器を見比べてみる、また担当者から商品説明を受けてみると、より広い視野で医療機器の最新動向に触れることができます。
(3)必ず複数社に見積もりを依頼する
医療機器を選定する際には、必ず複数社に見積もりを取りましょう。1社だけではその価格が妥当なのか分からず、必要以上に高い機器を導入することにもなりかねません。場合によっては入札で選定するのも良いでしょう。
(4)トータルコストを比較する
医療機器を導入するからといって、全て新品で購入する必要はありません。場合によっては中古の機器でも十分かもしれませんし、リース契約の方がコストを抑えられる可能性もありますう。全体のバランスを考えることが大切です。
(5)事業計画とマッチした医療機器を選定
例えば定年後の開業で、5〜10年くらい働ければいいと思っている先生の場合は、耐久年数15年の新品の機器より、耐久年数5年の中古の機器を選んだ方が費用も安くて無駄がありません。その医療機器が自身のクリニックにマッチしているのかを考慮して慎重に選定しましょう。
まとめ
クリニック開業という大きな選択を成功させるためにも、注意すべきこと、常に意識すべきことをきちんと理解して開業準備を進めていきましょう。