少子高齢化が加速している現代日本では、地域包括ケアシステムの更なる深化・推進が求められており、議論が活発化しています。
医療や介護の需要増加により、病院や施設の拡充のほか、介護の担い手の数が間に合わなくなることが推定されています。
そのため、地域の特性や高齢化の状況に応じた地域包括ケアシステムを構築がすることが重要です。
当記事では、地域包括ケアシステムの概要やその要素、生活課題などについてご紹介します。
地域包括ケアシステムの概要
地域包括ケアシステムとは、高齢者のサポートを目的とした総合的なサービスを地域一体で連携しながら提供する仕組みです。
厚生労働省が2014年に制定した医療介護総合確保推進法で構築することを推進しています。
このシステムでは、保険者である市町村や都道府県が主導し、その地域独自の施策を展開することが求められています。
また、高齢者だけでなく、障害者や子育て家庭、生きづらさを抱えた若者、生活困窮者などの幅広い対象のサポートを推進している地域も存在します。
地域包括支援センター
地域包括支援センターとは、地域包括ケアシステムを推進する中核となる機関です。
また、介護保険法第百十五条の四十六には、以下の内容が記載されています。
地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設とする。
つまり、地域内で介護や医療、保健、福祉に関する幅広い業務を担っており、高齢者や家族介護者の総合相談窓口として機能しています。
主に、保健師や社会福祉士、主任介護支援専門員などが在籍しており、さまざまなアプローチで地域住民のサポートを行っています。
また、行政機関や保健所、医療機関、児童相談所などのサービスに繋げる役割も担っています。
このセンターは、2005年の介護保険法改正に伴って開始しました。
現在は、在宅介護支援センターの「運営法人」や「社会福祉法人」「医療法人」「NPO」などが保険者から委託を受けて運営しています。
地域包括ケアシステムの単位
地域包括ケアシステムは、約30分以内にサービスにアクセスできることを想定しています。
つまり、地域包括支援センターはこの圏域ごとに設置されています。
2024年4月末現在、全国に5,451か所存在しています。
地域ケア会議
地域ケア会議は、厚生労働省が推奨している地域の多職種間で行われる会議です。
主に、行政職員やケアマネジャー、医療関連の専門家、ボランティア団体などのさまざまな立場の関係者が議論を行います。
地域の課題を把握・検討し、効率的な政策立案に結びつける場としての機能を担っています。
また、自治体よりも小さい各圏域レベルの課題から区市町村全体レベルの課題まで幅広く抽出できるというメリットがあります。
介護予防・日常生活支援総合事業
介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業とする)は、地域包括ケアシステム構築の入り口として位置づけられている事業です。
2015年4月の介護保険法の改正で導入されました。
高齢者の在宅生活を支えるために、介護事業所のほか、ボランティアやNPO、民間企業などの多様な事業主体を巻き込んで、重層的な介護予防や日常生活支援を進めていこうという国の方針です。
この総合事業により、介護保険の認定者以外の要支援者にも地域の特性に応じた多様なサービス提供が可能になりました。
地域包括ケアシステムの構成要素
地域包括ケアシステムは、以下の6要素で構成されており、互いに連携しながら有機的な関係を形成しています。
これらの要素は、2016年3月に公開された「地域包括ケアシステムと地域マネジメント」にて植木鉢の図にて示されています。
構成要素1:すまいとすまい方
「すまいとすまい方」とは、生活の基盤として必要な住まいが整備され、本人の希望と経済力に合った住まい方が確保されていることを指します。
この要素は、地域包括ケアシステムを構築する上での前提条件です。
高齢者のプライバシーと尊厳が十分に守られた住環境を整備する必要があります。
構成要素2:介護予防・生活支援
「介護予防・生活支援」は、健康の維持や地域で暮らし続けるための継続的な介護予防のほか、最低限の尊厳ある生活を送るための生活支援を行うことを指します。
この要素は、上記の総合事業でも取り扱われているように、専門的な医療や介護、福祉などのサービスを定着させるための要となる役割を担っています。
そのため、専門職以外の担い手も含めた地域のサポート体制を整備していくことが求められています。
具体的には、配食や買い物などのサービス化できる支援から、近隣住民の声かけや見守りなどのインフォーマルな支援まで幅広く提供していくことが必要です。
また、高齢者も社会参加することにより、介護予防に繋がることが期待できます。
構成要素3~5:医療、介護、福祉
医療や介護、福祉などの専門職によるサービスは、住民一人ひとりのニーズに応じて提供していくことが求められます。
これらは、ケアマネジメントに基づいて、多職種連携により一体的に提供されます。
なお、住民の一部は、経済的な困窮状態のほか、孤立や虐待、ネグレクトなどの問題に直面している可能性があります。
そのため、社会福祉職種による専門的支援もこの要素に含まれています。
構成要素6:本人の選択と本人・家族の心構え
地域包括ケアシステムの中で「本人の選択」が最も重視されるべき要素です。
つまり、本人の同意なく家族の意思のみで施設への入所を決定することを避ける必要があります。
今後も高齢化社会が加速していき、単身・高齢者のみ世帯が主流となる中で、本人及び家族が十分に考えて行動することが求められています。
家族は、本人の選択をしっかりと受け止め、要介護状態となった場合も本人の生活の質を尊重することが重要であると言えるでしょう。
地域包括ケアシステムにおける4つの生活課題「助」について
地域が抱える問題は、それぞれ異なるため、全国共通で適している画一的な解決策やモデルは存在しません。
そのため、地域包括ケアシステムには、稀少な人材や地域の資源を無駄なく効率的に活用するために、生活課題が設けられています。
生活課題は、「自助」「互助」「共助」「公助」の4つに分けられており、それぞれの解決を目指します。
また、これらのバランスは、地域の文化や経済状況、人口構造、疾病構造などのさまざまな要素によって変化します。
自助
政府は、高齢者自身で健康管理や介護予防を行うセルフマネジメントを推進しています。
自助は、個人レベルで自発的に自身の生活課題を解決する力を指します。
なお、高齢者自身が積極的に社会参加し、自費で介護保険外のサービスを利用できる能力も含みます。
互助
家族や知人、ボランティアなどの個人的な関係性を持つ人同士が自発的にサポートし合い、生活課題をお互いが解決し合う力を指します。
人材や費用が限られた地域においては、家族同士の協力やご近所付き合いなどのインフォーマルな社会資源を積極的に活用することが重要です。
共助
介護保険や医療保険などの社会保険制度を通じて連帯制度化された国民同士が支え合う仕組みを指します。
周囲のサポートする側の負担が大きくなり過ぎた場合には、共助を利用することが推奨されています。
公助
公費を財源とした公的な福祉サービスなどを指します。
最終的に、自助、互助、公助では対応できない問題を抱えた人に対して生活保障を行います。
高齢者福祉事業や生活保護、人権擁護、虐待対策などが含まれます。
まとめ
地域包括ケアシステムは、実際に医療や介護、行政などの業務に携わる方にとって重要なシステムと言えます。
これを構築することで、医療と介護の連携が強化され、地域内で切れ目なく包括的なサービスの提供が可能になります。
地域住民や多様な事業者を巻き込み、より多くのマンパワーを確保することにより、小回りの利くシステムの構築に繋がるでしょう。